第18話 お話します。③
「そんなことが何回もあって…気が付くと人と接するのが苦手になってた。また、怖がられるんじゃないかって、また、敵意をぶつけられるんじゃないかって。何気ない人の言葉にも逃げるようになっちゃった…」
「そっか…」
『…シーくんは私が、怖く、ない?』
戦闘の途中でウィルが言っていた事はこういう事か。どうしてウィルを怖がるんだと思っていたが、そんな経緯があれば、そりゃ人と接するのが苦手になるだろう。僕がその立場なら全部嫌になりそうだ。
『蒼天』ルーク様のやった事は確かに過激だ。やり過ぎという言葉を否定は出来ない。だが、気持ちは分かる。分かってしまった。だからルーク様が全部正しい訳では無いが、彼については一旦保留だ。よく知りもしない僕があれこれと口に出すのは失礼な気がしたから。今はウィルの事だけを考える。ウィルは魔法士の仕事自体は嫌いじゃないと言った。それはどうしてだろうか?
「…私は弱虫なの…。いつも逃げて、周りに迷惑を掛けて…」
「そんな私を変えたくて、学園に入学しようと思って、ちゃんと人を守れるようになりたくて…」
「ウィルは、人を守りたいの?」
つい、考えていたことが口をついて出てしまった。今までの周りの扱いを知ってなお、それでも守ろうとしている。あれだけ酷い扱いをされていながらそれでも助けようとしているのか。
「うん。困っている人達の力になってあげたくて。それに『ありがとう』って、『貴方のお陰で助かった』って言ってくれる人もいるから、だから頑張ろうって思ったの」
嗚呼、僕はウィルを思い違いしていたようだ。彼女は、弱くない。とても強い。力も精神的にも。眩しい位に高潔だ。だからこそ心配になる。僕がウィルを守るのは難しい。実力が離れ過ぎているのだ。ウィルの方が圧倒的に強い。守ると言うのは簡単だ。だが、行動が伴わない言葉は薄っぺらい。だったら
どうする?
「ふへへ…。ごめんね。変な事語っちゃって…」
「ウィル。君に伝えたい事があるんだ」
「?何?」
「ウィルは困っている人達を助けたいって言った。ウィルならきっと出来ると思う」
「ふへへ。ありがとう」
「だからって言うのは、変だけど、僕がウィルの支えになる。君の願いの為に強くなる」
「ウィル、僕は君の事が好きだ。だから」
「僕と結婚してください」
ウィルを守れる程僕は強くない。だが、好きになった女の子を切り捨てる程僕は弱くないつもりだ。隣で支えになりたい。力になりたい。一緒に歩みたい。この先もずっと。
◆◇◆
「ふぇ!?」
シーくんは今何て言った?頭が真っ白になってしまった。き、聞き間違いじゃなければ、結婚と聞こえたような…。
「ご、ごめん!いきなりすぎたよね!?」
シーくんは自分の言った事にびっくりしているようだ。
「う、ううん。大丈夫だよ…?」
「さ、流石に結婚は急ぎ過ぎだ。ごめんウィル…」
「き、気にしないで」
私はそう言うが、さっきのプロポーズ(?)で頭がいっぱいだ。シーくんと結婚…。ふへへ…。妄想が羽ばたいてゆく。
シーくんと結婚…。シーくんと一緒のテーブルでご飯を食べたり、お風呂に入ったり、一緒に趣味のガーデニングや創作魔法の研究したり、手を繋いでデートしたり、き、キスしたり、その先も…。結婚式はどんな感じがいいかな。私の地域の花嫁が着る服装もいいけど、向こうの世界の『ウェディングドレス』や『白無垢』もいいな。シーくんの『羽織袴』や、『タキシード』姿…。ヤバい、すごくかっこいい…。時間は夕方がいいな。薄明の空の下、シーくんと永遠の愛を誓うの。ふへへ…。
ちゃんとお金をためていかないとね。魔獣討伐した時のお金は貯めているというか、ほとんど使っていないけど足りるかな。確か、10億ベルぐらいあったっけ?数えてなかったけど、確かそれぐらいのはず。私仕事以外だとほとんど外に出ないし、買うものも食べ物ぐらいで、たまに服や本を買うぐらいだから、どんどん貯まっていくんだよね。確か魔法士の生涯に貰える金額が、約3000万ベルだから足りるかな?でも、子ども達や生活がどうなるか分からないから多く貯めていたほうが良いよね?
シーくんは子どもは何人欲しいかな?私は3人ぐらい欲しいな。シーくんの子どもはきっとかわいい。家族皆で旅行に行ったりしたいなぁ。ふへへへ…。はっ!いけない!つい妄想が広がり過ぎて、シーくんの話を聞いていなかった。
「ウィル…?」
「な、何でもないよ!大丈夫だよ!」
「いきなりこんな事を言っちゃってごめん。君の気持ちを無視し過ぎだ」
シーくんは少し落ち込んでいるようだ。違うんだよシーくん。凄く嬉しい。嬉し過ぎて、頭がおかしくなりそうだったの。
「ち、違うの!!嬉しくて、つい頭が真っ白になって!!」
私が変な態度を取ったせいでシーくんが落ち込んでしまった。ど、どうしよう…。
「し、シーくん、あのね、」
「でも、ウィルの支えになるって言葉は嘘じゃない。ウィルの願いの為に強くなるのも、ここでウィルに誓う」
「シー、くん」
「まだ、お互い知らないことも多いと思う。でも何度でも君に言うよ。僕はウィルが好きだ」
「だから、結婚するかどうかを決めるのはまだ早いけど、僕の恋人になってください」
シーくんが頭を下げて、手を差し出してくる。私の答えは一つだ。
「はい!喜んで!」
こうしてシーくんと恋人になった。これから先どんな事が待ち受けているかそれは分からない。でも、一緒に乗り越えて行こう。
〜〜〜
※1ベル=10円ぐらいの感覚です。金銭感覚がおかしいかもしれないので、ご指摘いただければ幸いです。
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