第16話 お話します。①
ドラゴンを倒した後、コルトの町に戻った僕達を待っていたのは、溢れんばかりの歓声と割れんばかりの拍手だった。
「ありがとう!!」
「町の英雄様だー!!」
「皆ー!!凱旋だ!!英雄様達が戻られたぞ!!」
「貴方達のお陰で、子供は無事でしたー!!」
「お嬢ちゃんも坊ちゃんも格好良かったぞー!!」
「いい男だ!!ぜひ、娘の婿に!!」
「お嬢さん、息子と夫婦になってちょうだい!!」
「お嬢さん、初めてあった時から好きです。ボクと付き合ってください!!」
ドラゴンを倒したのは、主にウィルの頑張りだと思うけど、嬉しそうな町の人々に伝えるのは野暮な気がしたので、曖昧に笑っておくとした。…おい、待て最後の。ドサクサに紛れて、ウィルに告白したのは誰だ。許さんぞ!!まだ別に恋人ではないから何も言えないが…いや、やっぱり嫌だ。ウィルは僕の恋人になる女の子だ!!
そんなこんなで町の人々に揉みくちゃにされること、1時間。やっと落ち着いた。…ドラゴンと戦うより疲れるとは思わなかった。僕とウィルはお互い寄り掛かるようにぐったりしながら、ベンチで休憩していた。
「ウィル大丈夫…じゃないね」
「あうぅ。つ、疲れたよシーくん…」
「お疲れ様。こんなに喜ばれると嫌じゃないけど、疲れるんだね…」
「ひ、人見知り拗らせてるから、本当にどうしようかと…」
「あはは…。うん、まぁこの町が無事で良かった」
「シーくんのお陰だね!」
「いや、ウィルのお陰だよ」
「シーくんだよ」
「ウィルだよ」
「シーくん!」
「ウィル!」
「……」
「……」
僕とウィルが無言で睨み合い、そして
「ふ、ふふふ…」
「ふへへへ…」
2人同時に笑う。なんか良いなこういうやり取り。
「じゃあ、僕達のお陰ってことで」
「うん。そうだね。そうしよう」
他愛も無い会話で盛り上がった。
◆◇◆
「あのさ」「あのね」
ウィルに聞きたいことがあったので尋ねると、ウィルも同時に尋ねてきた。
「ウィルからで良いよ」
「で、でも」
「大丈夫。ウィルの話が聞きたいんだ」
「う、うん。分かった…」
「シーくんは覚えてる?ゴブリン達と戦う前に私が言ったこと」
「もちろんだよ」
それは聞きたいことの一つでもあるから。
「じゃあ、改めてなんだけど…」
「うん」
「私の一族は魔法士。魔獣から人々を守るのがお仕事。そして…、『蒼天』の血を引く一族なんだ」
「うん」
「『蒼天』がどんな魔法使いかシーくんは知っている?」
「歴史に名が残る程の魔法使い。そして、ゾルド帝国を滅ぼした存在ってことぐらいかな」
200年程前の事。
この世界にとある転生者が現れた。
名は、ルーク。平民出身でありながら、類稀なる魔法の才能を持って生まれたことで、魔法士としての人生を歩むことになる。ルークは遺憾なくその才能を発揮し、敵国をことごとく打ち払い、かつてのノールズ連邦王国の地位を盤石とした。
後に彼は『特別戦略魔法士』の地位を与えられる事になる。これは、国の武力そのものであり、他国への抑止力となり得る魔法士を意味する。たった一人で戦況を覆す程の圧倒的な力を持つ魔法使い。絶対的な存在。それが『特別戦略魔法士』である。
その切っ掛けになる戦いが、ゾルド帝国からの侵攻を防ぎ、逆にゾルド帝国を滅ぼす事になる『モルゲン平原の戦い』である。
詳細は省くが、その戦いを一言で言い表すのなら、『凄惨』である。数万、数十万の兵士が命を散らした戦い。ただ、命を落とした兵士の9割以上がゾルド帝国兵士である。魔法士として派遣されたルークが力を振るい、帝国兵士を根絶やしにしたと伝えられている。
『蒼天の魔法使い』ことルークは国を守った英雄であり、他国から見た彼は、災禍を具現化したような存在だ。
そんなルークの血を引く一族。それが、ユーグベルト一族である。
ウィルはポツリポツリと、語っていく。
「『蒼天』、いや、ルーク様は破天荒で、家族思いな人物だって聞いてる。それが本当なのかを確かめる術はないけど、実際『モルゲン平原の戦い』は妻を守る為のものと言われているの」
「妻を守る?帝国からってことだよね?」
「うん。ルーク様の妻であるシャルロット=ユーグベルトはとても綺麗な人で、色々な人から求婚されてたみたいなの。その噂を聞きつけたゾルド帝国の当主だったヘルウッド5世がシャルロット様を奪おうとしていたみたい」
「え、てことはモルゲン平原の戦いはシャルロット様を奪うために始めたってこと?」
「元々、帝国は各国を支配下に置こうとしていたらしいから、詳細は分からないけど、原因の一つかも」
「そう、なのか」
多くの犠牲者が出た戦いの発端。それが色恋沙汰とは。
「妻思いだったルーク様はそれに激怒して、ゾルド帝国に宣戦布告したの。お家にルーク様が帝国に宛てた手紙の一部が残っていて、要約すると、妻を狙うなら帝国を滅ぼすと書いていた」
「でも、帝国はそれを無視したみたいで、シャルロット様を奪う為に侵攻してきたの。それを迎え撃ったのがモルゲン平原」
まぁ帝国を庇う訳では無いが、たった一人の手紙、それも元平民の手紙など無視するだろう。それが最大の悪手であるとも知らずに。
「その後のことは、歴史の教科書とほぼ変わらないと思う。ただ、帝国の兵士を虐殺したのは、なんというか、見せしめというか…二度と、シャルロット様に近づく者がいなくなるようにしたの…」
「…凄く妻思いなんだね」
最大限オブラートに包むが、ルーク様はどうやら結構、いや、かなり重い愛の持ち主のようだ。自分の大切な妻が狙われているなら気持ちは分からなくはないけども。ウィルもそう思っているらしく、苦笑している。
「少しやり過ぎだけどね…」
「……。うん」
少しなのだろうか?世界の常識を変えるレベルの出来事では?そう思ったが、口に出さず、ウィルの話に耳を傾ける。
「あ、でも、シーくんを傷つける人がいたら私…まともではいられないかな…。…その時は私頑張るからね…」
ウィルの瞳が暗い光を放った気がした。…何故だろう。普段なら心が暖かくなるはずの笑顔に、冷や汗が止まらないのは。
「…ありがとう。ウィルに守ってもらえるなら凄く頼もしいよ。」
「ふへへ〜。任せて!全部片付けるからね」
…何を片付けるのかは聞かないでおこう。きっと今の僕には到底理解が及ばないから。
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