第14話 ボス戦です。
「『喧騒纏う
ウィルの詠唱が始まった。周囲に光を纏い、透き通るような声で紡ぐ姿は思わず膝を折り、祈りたくなる程に神々しい。だが、悠長に待ってくれない。高速で接近するドラゴンを迎え撃つ。
土魔法 《土壁:20層》
水魔法 《氷壁:20層》
水と土、それぞれ20枚ずつ壁を展開する。だが、これでもまだ足りない。勢いを殺さずそのまま突っ込んでくる。壁に衝突し、それぞれの防壁が一瞬にして破壊される。なら、
水魔法 《俄雨》
周囲に勢い良く雨を降らせる。十分濡らした。次は
水魔法 《氷壁:刺突圧迫》
ドラゴンの周囲に半球状の氷壁を展開する。内側に刺があり、圧迫するように凍りついていく。衝突すると砕けるが、想定内。ただ目を逸らすためだ。
土魔法 《地形形成》
後ろ脚が地面に着地する箇所に落とし穴を設置する。人間で言う脛辺りの浅い穴だが、引っ掛かったドラゴンの身体が前方に傾く。続いて
土魔法 《岩槍》
今自分が出来る最硬度の《岩槍》を、倒れる箇所に設置する。狙うは目だ。
「ゴアアアアア!!!」
咄嗟に体をねじり、上空へと翼で舞い上がろうとする。
「(させるか!)」
水魔法 《氷鎖》
土魔法 《土楔》
氷で生成した30本の鎖を胴体に巻きつける。同時に《岩槍》にも巻き付け、土の楔を打ち込み固定する。もって1秒
「アルト!」
「フッ!!」
後ろに控えていたアルトが飛び出す。氷の鎖を駆け上がり、最速の突きで狙うは、目や舌といった粘膜の部分。ついでに
水魔法 《氷塊》
《氷塊》を十数個ドラゴンの頭上から落とし、強制的に下に向かせる。これでアルトが攻撃しやすくなる。
「ガアアァ!!」
氷の鎖を引き千切り、口から業火を放つ―
「オーラ!」
「《風翼》!《風壁》!」
寸前にオーラさんが同時に2つの魔法を行使する。
《風翼》は対象者に風の翼を与え、短時間だが、自由に空を駆ける事が出来るようになる。
《風壁》は周囲に風の壁を作り出し、対象者を守る魔法だ。
「『黎明に焦がれ、宵闇に惑う。人魔、逢うて重なり一つ』」
風の翼を得たアルトは空を蹴って方向転換を行う。
アルトが今までいた場所を業火が通り過ぎる。
素早い動きで撹乱を行っているアルトが叫んだ。
「シオン!」
水魔法 《凍結》
水魔法 《氷鎖》
《俄雨》で濡れたドラゴンの身体から冷気が立ち上り、僅かに凍りつく。目の部分に敢えて半透明な氷を作る。半透明な氷は透明な氷に比べ、不純物が多く、空気が混ざってしまい、脆くなっている。だが、目隠しとして十分。千切れた《氷鎖》を繋ぎ合わせ、更に太い鎖として、翼を縛り上げる。
「ガアアアアア!!」
鎖を引き千切ろうと暴れる。さっきよりも縛る時間は増えたが、僅かな時間。
「《下降噴流》」
「ハッ!!」
オーラさんが空中から落とすように強い風を生み出す。氷の鎖で縛られた翼を動かそうとするが、畳み掛けるようにアルトが追撃する。金属と硬質な鱗が衝突し、火花を散らした。
「『薄明の空の元、
アルトからの攻撃を疎ましそうに身を捩る。
振り回した爪が当たる瞬間
水魔法 《氷柱》
ゴン!!重い物が衝突する音が響く。咄嗟に作り出した氷の柱をドラゴンの顎の下から伸ばし、打ち上げた。上を向かせることに成功し、アルトへの攻撃は空を切る。
「『求める最先深淵とて、我は
同時にもう一つの《氷柱》を足場として使い、ドラゴンに接近。
水魔法 《氷槍》
水魔法 《氷狼牙》
まだ完全に溶けていない、目に張った不透明な氷。その片目に向けて、氷の槍を放つ。ダメ押しとして、氷の器に大量の水を入れて作成したフレイル型のモーニングスターを振り下ろし、氷の槍を押し込む。だが
ベキッ!
「(クソッ!硬すぎる!)」
打ち込む前に半透明の氷は片目だけ解除。遮るものは何も無いのだが、打ち込んだ瞬間氷の槍は砕け、モーニングスターは半壊。虫を払うように前脚を振り回してくる。空中に氷の板を生成し、足場にして回避する。物理攻撃が効きにくいなら
水魔法 《水牢獄》
顔を水で覆う。さらに圧縮し、呼吸を妨げる。ドラゴンとて呼吸する生物。呼吸が出来なくなれば、多少は動きが鈍る、そう考えていたが、
「ゴアアアアア!!!」
「(咆哮一つで吹き飛ばすかよ!)」
水魔法 《凍結》
舌に残った水を凍りつかせる。口内に巨大な氷が生み出される。僅かな時間だが、業火が吐き出されるのを防ぐ。
土魔法 《大蛇》
周囲にある土と岩から巨大な蛇を生成する。魔力が心配になるが、幸い魔力はかなり多い方だし、まだ、余裕はある。それに出し惜しみしてる場合ではない。下半身に巻き付かせ、尾に喰らいつく。地面に引き摺り下ろすように、力を込める。
「(点と線がダメなら、面はどうだ)」
水魔法 《氷壁:30層》
「《下降噴流》」
上から押し潰すように巨大な氷の壁を作る。その数現在最大の30枚。オーラさんの風魔法も合わさり、普段の倍以上の重量になっているだろう。
本来ならコイツは、こんな攻撃虫に刺されたようなものだろう。痛痒すら感じるか怪しい。
だが、翼は氷の鎖で縛られている。下半身は巨大な蛇に巻き付かれ、尾を噛まれ、動くことは困難。頭上から数十枚の氷の壁と、強風に煽られた。周囲には高速で飛び回り牽制をかけるアルトがいる。これでもまだ、抗えるか?
その答えは地面へ落下だった。
「ガアアアアアアア!?」
「(ようやくだ。地面に落ちたな!)」
水魔法 《土壌浸水》
土魔法 《地形形成》
水土混合魔法 《泥沼ノ魔手》
水と土。同時に発動し泥沼を作り出す。さらに無数の手が泥沼の中に引き摺り込むようにドラゴンを捕らえる。
「ギャアアアアア!!?」
下半身が沈んだ時点で、抵抗が激しくなる。だが、引き摺り込まなくても、自重で沈むような体躯だ。抜け出せまい。それに
「『我と共に歩む者には、眩き祝福を。我に仇なす者には、昏き眠りを』」
ウィルの詠唱が続く。周囲の光が強くなり、纏う魔力が高まるのを感じる。もう少しのようだ。
「『重なり合い、顕現せよ』」
ウィルがチラリとこちらを見る。準備完了の合図だ。僕はウィルに頷いて応える。
「《薄明領域》」
ウィルの魔法が発動した。
僕らを含め、周囲にいた全てが光に呑み込まれる。
それは、夜明けのような
それは、夕暮れのような
光と闇が混ざり合う光景
『薄明の魔法使い』
彼女の異名となる魔法が世界を包み込む。
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