第13話 共闘です。

あぁ、やっと言えた。昨日の夜オーラさんと話していた時から感じていたウィルへの気持ち。彼女へと伝えた想い。心に架かっていた霧が晴れていくのを感じる。


…全く僕のチョロさには呆れたものだ。初恋が一目惚れとは。しかも出会ってまだ一日しか経っていないのに告白ときた。色々とすっ飛ばしすぎだし、早すぎではなかろうか?反省はしている。でも後悔はしていない。


僕がウィルを好きなこと。後悔なんてない。たとえウィルに友達だからと拒絶されたとして、ウィルを振り向かせるために行動するつもりだ。


スカーレットドラゴンはその場から動かない。ウィルを警戒しているように見える。実際僕とウィルが話している間、こちらを睨んで(?)いたが、動きはなかった。


「(ウィルが怖いのか?)」


その可能性はある。ウィルの一族が他のドラゴンもろとも巣を破壊した光景を目撃したか。それとも、ウィルの魔力を見て、強敵だと判断したか。ドラゴンの考えは分からない。前者なら可哀想だが、それなら、まだ勝機はあるかもしれない。


「シオン!ウィル!」


「大丈夫か!?」


「アルト、オーラさん!ごめん力を貸して!」


駆けつけてきたアルトとオーラさんに助けを求める。あれだけ威勢の良い言葉を言った癖に、と自嘲するが、僕一人では如何ともし難いのは事実だ。情けなさはこの際呑み込んで、今はコイツをどうにかするのが先決だ。


「!?スカーレットドラゴンだと!?なぜこんな所に…」


「アルト、今は考えている暇はない。俺達で食い止めないとこの町含め、被害が甚大になる」


「分かっているさ。シオン、ウィル!後で説明して貰うぞ!」


「ありがとうアルト!オーラさん!」


アルトとオーラさんに感謝を伝え、ウィルに向き直る。


「ウィル。君の力が必要だ。スカーレットドラゴンの弱点が知りたい。教えてほしい」


「ふひゃ!?あ、う、うん。スカーレットドラゴンの鱗は鉄の何倍も硬いの。それに魔法耐性もあるから魔法も通りづらいんだ。だから方法としては2つ」


ウィルが驚いたような声を上げる。何か考えていたのだろうか。コイツを倒す算段か?なら助かる。そうしてウィルが2本の指を立てる。


「まずは力技なんだけど、スカーレットドラゴンの鱗の耐久力を上回る力で攻撃する。その場合、最低でもSランクを上回る剣士か、魔法士でないと厳しい」


「2つ目だけど、スカーレットドラゴンの体内から攻撃する。鱗に覆われていて、外からの攻撃はほぼ効かないけど、内からの攻撃には一般的な魔獣と大差ないから」


「ウィルの一族はどっちだったの?」


「私の一族は前者だったよ。お母さんは風魔法で切り刻んでいた。お姉ちゃんは無属性魔法を使って圧殺してたし、お父さんは固有魔法の雷魔法を使って焼き払ってたよ」


「ウィルは?」


「私は火が得意だから鱗ごと燃やしてたよ」


…改めて凄い家族だな。


「じゃあ、ウィル。その魔法を発動するのにどれぐらいかかる?」


「火魔法ならすぐに使えるよ、でも…」


ウィルは口ごもる。すぐ使えるなら問題なさそうだが。


「シーくんは見たと思うけど、私火属性の魔力効率が良すぎて、ちょっとした魔力でも大きな魔法が出てしまう。下級の魔獣相手なら《火球》で十分事足りるんだけど、ドラゴン相手だとそんな加減は出来ない。上級魔法を使うことになる。そうすると周囲の人達が危ないんだ。シーくん達を巻き込んでしまう…」


なるほど、そういうことか。僕らが危ないから躊躇っていたのか。魔力効率が良すぎるのも、考えものだ。ウィルの優しさに感謝しつつ、自分はまだまだ弱いと実感してしまう。今更な話だが。では、次はどうしようか。


「じゃあ、2つ目の案かな?僕がドラゴンの体内から攻撃すればいい?」


ドラゴンの内部から破壊する。それはつまり、ドラゴンの体内に入る必要がある。中々リスキーだが、やるしかないなら僕がやるかな。ウィルにそんな役割を任せたくはないし。


ウィルはそんな僕に首を横にブンブン!!と振って否定する。


「シーくんが食べられるなんて絶対にやだ!!そ、そうじゃなくてドラゴンを倒す魔法なら別にあるの。周囲に危険を撒き散らすことなく、倒せると思う。でも、詠唱や準備で時間が掛かるんだ…」


「どれぐらい掛かるの?」


「そんなに時間は掛からないとは思う。30秒も掛からないはず。でも、その間、無防備になるの…」


「分かった。その30秒僕達が時間を稼ぐ。発動出来るようになったら教えて」


「シーくん…無理しないでね」


たかが30秒、されど30秒だ。ドラゴン相手に1秒すら難しい。だが、やるしかない。


「アルト!オーラさん!ウィルがドラゴンを倒す魔法を使ってくれる!僕達は時間稼ぎだ!」


「どれぐらい稼げば良い?」


「30秒」


「…ドラゴン相手には長すぎる時間だが、やるしかないんだろう。オーラ!」


「…全員に防護壁を張る。焼け石に水だろうが、何もしないよりはマシだ」


「ありがとうオーラさん。じゃあ二人共行こう」


スカーレットドラゴンに向き直る。向こうは既に臨戦態勢だ。


今までの人生の中で最も長い30秒が始まる。











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