第12話 戦う直前に想いを伝えます。
「ゴアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」
突然響き渡る咆哮。音は上空からだった。警戒を強めながら、空を仰ぎ見る。最初は黒い点のようだった。空を泳ぐように何かがこちらに近づいてくる。
「あれは…?なんだ?」
「!シーくん!!そこから離れて!!」
ウィルが絶叫し、考えるよりも先に体が動く。前方右斜めに全力で跳躍し、回避した。
刹那地面が爆ぜた
「な、嘘だろ…」
今まで僕がいた場所がクレーターのようになっていた。いや、クレーターそのものだ。半径10メートルほどであり、そこにいたゴブリン達は跡形も無くなっていた。
「ウィル助かった!ありがとう!」
「まだだよ、シーくん!この魔獣を倒さないとこの辺一帯が滅んでしまう!」
クレーターの中心にいる魔獣を見る。全長は20メートルほど。緋色の鱗。トカゲを巨大化させたような外見。背中には翼を携えており、棘が尾まで伸びている。目は爬虫類のもので縦長の瞳孔がこちらを睥睨する。この外見で連想される魔獣は一つしか知らない。
「コイツは、まさか…ドラゴンか…?」
「このドラゴンは、スカーレットドラゴン。Sランクの一角だよ…」
「スカーレットドラゴン…これが」
「…ごめんなさい。シーくん。私のせいで…」
「どうしてウィルが謝るの?」
「多分このドラゴンの狙いは私だから…」
「え?」
「私の一族はこのドラゴンの討伐を命じられていた。巣ごと破壊したと思っていたんだけど、まだ生き残りがいたみたい…」
◆◇◆
「ごめんなさい。巻き込んでしまって…。で、でもシーくんだけでもここから―」
「ウィル」
逃げて、そう告げる前にシーくんが私の名前を呼ぶ。ついビクッとなってしまう。シーくん怒っているよね…?当たり前だと思う。こんなことに巻き込まれて、喜ぶ人なんていない。きっと嫌われてしまった。嫌だ…シーくんに嫌われるなんて嫌だ…でも、誰がどう見ても私が悪い。私のせいだ。
泣きそうになりながらシーくんの言葉を待つ。絶交か、罵倒か。でも、シーくんが発した言葉はどちらでもなかった。
「その言葉は無しだよ」
「…え?」
「あの時の言葉、忘れちゃった?」
シーくんの言葉を思い出す。あの日、出会った時のことを。
『ウィルがいいんだよ』
『ウィルと一緒にやっていきたいんだ』
『僕は君と仲良くなりたい。出会って少しだけど、そう思ったんだ』
『楽しいことを分かち合いたい。辛いことは共に乗り越えたい。どうしようもないことは…まぁ2人で考えよう』
「で、でも…シーくんそれは…」
シーくんに迷惑が掛かってしまう。
「ウィルは僕が迷惑かな?僕のこと嫌い?」
「そんな事あるわけないよ!私はシーくんが好きだから、だから…」
生きていて欲しい。傷ついて欲しくない。
「良かった。僕もウィルの事が好きなんだ。あはは…本当ならもっとロマンチックな場所で言いたかったんだけどね」
シーくんが私を好き…?驚いてしまった。だって私の片思いだと思ってたから。シーくんは私に何時も優しくて、笑顔で、こんな面倒な私に付き合ってくれて、友達だと言ってくれて。
ずっと一緒に居て、いつか好きになってくれたら良いなって思ってた。友達以上の恋人や…夫婦になれたらいいなって。でもシーくんは私が好きだと言ってくれた。こ、これってそういうことだよね?
「あの約束を破棄するつもりはないよ。僕はウィルと共に歩いていく。だからウィル、力を貸して。僕一人じゃ乗り越えるのは難しい。でもウィルとなら何でも出来そうだ」
「シー…くん…。私、シーくんの側にいていいの…?」
「当たり前だよ。むしろ、僕がウィルにいて欲しいんだ。ウィルの側にいたいんだよ」
シーくんは私にそっと微笑む。暖かい日向のような笑顔だ。私の大好きなシーくんの笑顔。
それからシーくんは真っ直ぐに、スカーレットドラゴンを見据える。
「だから、申し訳ないけど、お前はここで退場して貰うぞ」
これってあれだよね?ぷ、プロポーズだよね?一生を私と一緒に歩いてくれるってことだよね?なら、シーくんの想いに応えなきゃ!!
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