第10話 緊急事態発生です。
ウィルの魔法講座はとてもためになる内容だった。分かりやすく説明してもらい、時に実践してみて、ウィルに気になった所を指摘してもらい、また、実践する。これで少しは魔法の扱いが上手くなった気がする。…時々後ろから抱き着かれたのは、受講料として考えよう。ウィルも嬉しそうにしてたし。ただ、抱きつかれながら耳元で囁かれると、なんだかゾクゾクする。嫌な気はしないが、もしかして僕は耳が弱いのか?
◆◇◆
昼食の時間になり、アルト達と合流しようとしたのだが、なんだか町の様子がおかしい。何かから逃げるように走っていく町の人々。自警団らしき人達が、村の外に集まっていく。
…なんだか嫌な予感がした。
「シオン!」
「アルト、何があったの?」
「嫌な予感が的中した。周辺に魔獣が多数。EランクやDランクのみだが、200匹は超える」
「200匹…」
予想通り魔獣が現れたようだ。ただ、数は予想を遥かに超えていたが。
「シオンとウィルは町の避難場所に向かえ。私とオーラは魔獣を迎撃する」
アルトならそう言うと思っていた。僕らの安全を最優先にするだろうことも。でも
「…アルト」
「…ダメだ」
「…まだ何も言ってないよ」
「魔獣の迎撃を手伝うというんだろう。ダメだ。お前達を守るのが私達の役目だ。手伝わせるわけにはいかん。万が一怪我でも負ったらどうする気だ」
「アルト」
「ダメだ」
「アルト。僕達はノヴァ魔導学園に入学するんだよね?」
「…?そうだ。それが何だと」
「ノヴァ魔導学園は魔法士を育てる学園だよね。魔法士は魔獣から人々を守る存在のことだよね」
魔法士は魔法使いの公的な呼び方。広義的には魔法を使う職業全般を指すが、狭義的には魔獣と戦う魔法使いを意味する。
「だから、何を」
「じゃあさ、これぐらいの危機は乗り越えられないと魔法士にはなれないんじゃない?」
「…これぐらい、か。200匹をこれぐらいとはな。…だが、お前の言う通りでもある。あの学園は見習い魔法使いでも容赦しない。入学してすぐに、
「知ってる。オーラさんから教えてもらったよ。なら今の内にその練習をしたいんだ。幸い、ここには自警団もいるし、アルトやオーラさんもいる。命の危険は学園よりも少ないと思うけど」
「…言っていることは分かる。だが…」
アルトが渋っている。アルトは見かけによらず心配性だ。
「アルト。お願い」
頭を下げて頼み込んでみる。アルトがこうすると弱いことは知っている。だから使わせてもらう。
「…分かった。だが、無理はするなよ。危なくなったらすぐに逃げろ。いいな?」
「ありがとうアルト。ワガママを聞いてくれて」
「お前達は南の門付近に行け。魔獣の数は比較的少ないはずだ」
「分かった。行ってきます」
「…無事に帰ってこい」
◆◇◆
「ねぇ、ウィル」
「どうしたのシーくん?」
「ウィルは、魔獣との戦闘は経験あるの?」
南の門に向けて移動しながらウィルに尋ねる。南の門付近に魔獣の姿は少なく、被害は今の所見当たらない。近くで自警団が応戦している音が聞こえる。何かがぶつかる衝撃音、自警団の怒号と、魔獣達の雄叫びが重なる。
負傷した人を襲おうとしている、ゴブリンの首を剣で切り飛ばし、近づく二匹を土魔法 《岩槍》を使い、胸部を貫き殺す。土魔法 《岩槍》は地面から岩の槍を生成し、敵を貫く魔法だ。
範囲は広め、威力もそこそこ高く、消費する魔力量も低めで、中々使い勝手が良い魔法だ。一度に複数の槍を生成することも出来、Eランク程度であれば、問題なく殺すことが可能。水に囲まれた場所や、上空の敵には厳しいが、それ以外の魔獣相手なら有効である。
負傷した自警団の人をウィルが闇魔法 《解毒》と光魔法 《治癒》を使い、傷の手当をしている。ウィルはどうやら光属性と闇属性の魔法が使えるようだ。動けるようになった自警団の人は礼を言い、戦場に戻っていった。
光は励起、活性、拡散、放出を司り、
闇は停滞、鎮静、集束、吸収を司る。
また、光は治癒と強化を、闇は解毒と解呪を含む。冒険者にとって、喉から手が出るほど欲しい魔法である。ただ、この2つの属性は他の属性とは違い、扱える者は珍しく、転生者を除くと、聖神官や、魔法に精通している賢者ぐらいか。
ウィルが凄い魔法使いなのは、なんとなく気付いていた。だが、魔獣との戦いがあるとは限らない。戦わない魔法使いもこの世界には珍しくない。
すると、ウィルは、困ったような、辛いことを思い出したようなそんな表情になる。聞かれたくないことだったのか?それなら謝ろう。だが、僕が謝るよりもウィルが話を切り出す。
「…実は、シーくんに伝えていなかったこと、なんだけど…」
「うん」
「…私のお家、魔法士の一族で、小さい頃から魔獣と戦ってきたの。魔獣の巣が近くにあってそこから出てくる魔獣を倒してたんだ…」
「そうなんだ、って魔獣の巣!?え、大丈夫なの!?」
思わず声を荒げてしまう。ウィルを怖がらせないように、ゆっくりした喋り方を意識していたのだが、まだまだのようだ。そんな僕をよそにウィルはポツリポツリと話し始める。
「…物心付く前から、魔獣は、たくさん見てきた。中には、強い魔獣や怖い魔獣も、勿論いたよ。でも、お父さんやお母さん、お姉ちゃんが凄く強いから。こんなことを言うとアレだけど、魔獣は、全然大丈夫。でも…」
そこでウィルは一度言葉を切り、僕を上目遣いで見上げながら尋ねてくる。何かを怯えるように。
「…シーくんは私が、怖く、ない?」
「どうして?」
ウィルに尋ね返す。どうしてウィルを怖がるのだろうか?ウィルは恐れながらも何かを決断するように、はっきりと告げる。
「私の一族は、『蒼天の魔法使い』、かつて多くの人を殺した転生者の子孫なの…」
『蒼天の魔法使い』
伝説の魔法使い
始まりの転生者
神殺しの炎
かつての超大国を消し去った英雄であり咎人の異名である
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