第8話 語らいの時間です。《SIDE:ウィル》

道の途中にある村の宿で一泊することになった。一部屋しかとれなかったみたいで、部屋を仕切って男女で分かれることになった。…シーくんと寝たかったです。


お風呂に入って、ベッドに腰掛けながらシーくんたち男性陣の話をなんとなく聞いていると、隣のベッドにアルトさんが腰掛けた。


ちなみに女性陣がベッドを使って、男性陣が敷き布団を使うことになった。だったら、シーくんと一緒でもよかったんじゃないかと思って提案してみたけど、ダメだった。


アルトさんがこちらをジッと見ている。

悪意や敵意みたいなものは感じない。そういうのは見分けが付くようになっている。だから、悪い人ではないと思う。ただ、怖い。


人見知りをこじらせた私を舐めないでほしい。シーくんが近くにいないと、ろくに話も出来ない女だ。3秒で逃げる自信がある。


シーくんと一緒にいる為に強くなると決めたけど、1日では無理だと思う。うぅ、そんなに見ないで…。ヘタレだと重々承知しているけど、シーくんが近くにいるから大丈夫…かな。…!?シーくんの声が聞こえなくなった!?防音の魔法?そんな!?うぅ、どうしよう…。


「なぁ」


「はひ!?」


声が裏返ってしまった。今鏡をみると、引き攣った顔の女がいることだろう。


「聴きたいことがあるんだが」


「は、はい…」


な、何を聞かれるんだろう…。


「単刀直入に聞こう。君はシオンが好きなのか?」


「え?」


「君はシオンが好きなのかと聞いた」


質問としては、これ以上無い程シンプルなものだ。

そして、誤魔化しは効かないとでも言うように、私の目を見る。


これに応えないのは流石にダメだ。ダメダメな私でも分かった。それに私の答えは一つだ。


「はい。私は、シーくん、シオンくんが好きです」


言った。言っちゃった。は、恥ずかしい…。今顔が真っ赤になっているのが、自分でも分かる。でも、後悔はない。


「何故だ?」


「…な、何故とは…?」


「君とシオンは出会ったばかりだろう。何故好きだと断言出来る?」


確かに、親としては気になるだろう。いきなりよく分からない女が息子と腕を組んでたらそうなるよね。騙されているんじゃないか、息子を傷つけるんじゃないかって。私がアルトさんの立場ならそう思う。だから、きちんと答えよう。拙くても、説明が下手で怒られても。


「私はシオンくんに助けて貰いました」


「川に落ちた君を助けたんだったな」


「それもあるんですが、それだけじゃないんです」


「ふむ。というと?」


「私、こんな性格だから…今まで、友達はいませんでした…。それに、で友達になりたいって言ってくれた人も居なくて…」


「…詳しくは聞かないが、それで?」


「そ、その信じて貰えるかどうか分からないのですが、えと、私には悪意や敵意がなんとなく分かりまして、悪意を持った人から逃げてばかりで、元々人見知りだったのですが、余計拗らせて…人の目を見るのも苦手になって…」


「……」


「でも、シオンくんは違いました」


「悪意も、敵意もなくて真っ直ぐに私を見て、言ってくれました。楽しいことも苦しいことも私と一緒にしていきたいって。沢山話し合おうって。友達になってほしいって言ってくれました」


「嬉しかったんです。そんなことを言ってくれた人は初めてだったんです。私と一緒に居たいって言ってくれた人は」


「だから、シオンくんのそばに居たいって思いました。ずっと変わりたかった。私は私自身がずっとずっと嫌いだった。そんな私を救ってくれたんです」


「シオンくんと一緒に、私は強くなりたい。この先もずっと。そう思ったんです」


「シオンくんは私を救ってくれた。だから今度はシオンくんを私が助けたいんです」


「だ、だから!その…シオンくんのそばに居させてください!」


つい、熱く語ってしまった…。この女ヤバい奴だと思われたらどうしよう…。でも、嘘はつきたくなかった。


「…やっと、目が合ったな」


「え?」


「正直、さっきまでの君は見ていて不安だったよ。オドオドして、声がか細く、貧乏揺すりして、目が一度も合わなかった」


「あ、うぅ」


「シオンが選んたからといって、そのまま受け入れていいものかと悩んでいたが、杞憂だったようだ。君は自分を変えようとしている。それは一朝一夕で出来るものではない。だが、今の君なら変われるだろうさ」


「あ、ありがとうございます…」


「シオンのこと、頼んだよ。アイツのほほんとしてるから、危なっかしいところもあるんだ。守ってやってくれ」


「は、はい!」


「しかし、あれだな。いわゆる一目惚れって感じか」


「は、はい…。そう、だと思います…」


へ、変かな…。確かに色々と早すぎる気が…。


「別に一目惚れは否定せんよ。…私もそうだったからな」


「はぇ?」


『そうだった』?アルトさん誰かに恋してたの?言っては何だが、そういうのには無縁なのかなって思っていました。はい…。


「オーラのやつだよ。幼馴染なんだ」


更に驚く。全然タイプが違う…。でも、確かに仲良さそうだったような。シーくんと話す時以外俯いていたから多分である。


「昔は引っ込み思案な奴でな。私が無理矢理外引っ張り出してたんだ」


「…あ〜」


容易に想像出来てしまう。オーラさんが昔引っ込み思案だったのは、今の彼を見て想像出来ないけど、アルトさんならやりかねないって思ってしまった。ごめんなさい…。


「普段はオドオドしてたし、目も合わないから軟弱者だと思ってたんだ」 


私と同じタイプのようだ。親近感をもつ。ごめんなさいオーラさん。


「でもさ、ある日、山に行った時に魔獣に襲われてな、子供心に死ぬかと思ったよ」


「そんな時、オーラは、私を助けてくれた」


「ボロボロになりながら、それでも決して逃げず、私を守りながら魔法で魔獣を退治してた」


「…柄でもないのは、自覚してるんだがな。あの時泣きじゃくってた私を助けてくれた。オーラが王子様に見えたよ。その日からオーラのことが好きになった。…我ながらチョロいが」


分かる。私を救ってくれたシーくんは本当に王子様に見えた。そして、チョロいのは私もだ。私がシーくんを好きになったのは、出会って数分なのだから。反省はしてる。後悔はしていない。


「あいつから告白された時は嬉しかったよ。絶対嫌われていると思ってたからな。ただ、色々あって別れてしまったんだが…」


「…未練がましくて、恥ずかしい話だが、別れた後も、他の男と付き合う気はないんだ。アイツ以外の男と付き合うぐらいなら、一生独身でいいと思った」


凄く分かる。シーくんに嫌われたら生きていけない。もはや、生活の一部と言っても過言ではないと思う。それぐらいシーくんの存在が大きくなっている。


「アイツが今私をどう思っているか分からんが、それでも私のそばにいてくれてる。それだけで、助かっているんだ。冒険のパートナーってだけじゃなくて、精神的にもな。オーラがいるだけで、どんな困難も乗り越えられる。そう感じるんだ」


「はい。分かります。シオンくんがいると、私は強くなれる、そう思います」


「…あー!!私はなんでこんな小っ恥ずかしいことを!!あーもう!!言いたいことはシオンと君の恋路を応援しているから、頑張れってことだ!!!!」


「!!はい!頑張ります!!」


アルトさんは恥ずかしそうに頭を掻きむしる。顔は真っ赤になっていた。それよりも、アルトさんが名前を初めて読んでくれた。私のことを少しは認めてくれたみたいで、嬉しい。頑張らなければ!!



「後、シオンの奴奥手だと思うから、押し倒して既成事実作ってしまえ。そうすればアイツはウィルから離れなくなるだろ。そのまま結婚すればいいんじゃないか?」


「参考になります!!」











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