第7話 語らいの時間です。
二日目は近くの村の宿屋に泊まることになった。
一部屋しか取れなかったため、部屋の中央を仕切りで区切り、男女で分かれる事になった。ウィルが寂しそうにしていたが、流石に女性側に入れないため、なんとか説得して渋々納得してもらった。
…ウィルと一緒に寝たら、中々寝付けなさそうだ。あの距離感はまだ、慣れない。少しずつでも慣れて行こう。ウィルと触れ合うのは嫌いじゃない。むしろ触れ合いたいと思っている。ただ、まだ恥ずかしいだけだ。
でも恥ずかしがってばかりもいられない。
オーラさん曰く、学園は実力主義らしい。実力がある者は優遇され、実力のない者は冷遇とまではいかないが、意見が尊重されるのは難しいとのこと。
おそらく、ウィルは凄い魔法使いだ。空間転移が使えるという理由しかないけど、持って生まれたか、自力で使えるようになったか、どちらにせよあの魔法は無属性の最上位魔法だ。
無属性は魔法使いなら、誰でも覚えられる。だが、それが最上位なら話は別だ。
空間転移は簡単に使えるものでは無いし、なんなら使えないまま生涯を終える魔法使いが大多数だ。
オーラさんからそんな話を聞いた。そんな彼女の隣にいたいなら、僕も今よりも頑張るべきだろう。ウィルがどう言うか分からないけど、これは僕の意地のようなものだ。
そんな僕の決意を知ってか知らずか、オーラさんが話しかけてきた。防音の魔法をかけたようで、女性陣の物音が聞こえなくなる。
「シオンくん」
「何ですか?」
「君は、彼女、ウィルローナさんのことをどう思っているんだい?」
「大切な存在ですよ」
「出会ってまだ、間も無いのに?」
「まだ、ウィルのことは知らない事も多いです。でも」
「一緒に居たいと感じました」
「こんなに誰かと一緒に居たいと思ったのは、初めてかも知れません」
「…それは友達として?」
「それは…どうなんでしょう?」
つい、溢れる疑問。僕がウィルと居たいのは友達だからか、それとも別の何かなのか。僕自身が良く分かっていない。今まで感じたことのない感情だった。ナナリー以外に初めて出来た女の子の友達だから?ウィルだから?まだ、分からない。
ウィルと一緒にいると、心が暖かくなる。会話も触れ合いも、時間を忘れてしまうぐらい楽しいし、嬉しい。何なんだろう、この感情は。ドキドキするけど安心する。矛盾している。でも、共存している。
「…分からない?」
「…はい。良く分からないんです」
素直に伝える。モヤモヤした何かを外に出すように。
「そうか…」
「(自覚がないのか…。彼女が君を見つめるように君も彼女を見つめていたことを)」
「…シオンくんには伝えたことがあったかな?俺とアルトは幼馴染だったんだ」
「え、そうなんですか?」
驚く。会話から仲良いなと感じていたが、幼馴染だったとは。
「生まれたときからの付き合いでね。昔からアルトには振り回されていたよ。魔法の練習がしたいのに、無理矢理引っ張り出された挙げ句、山やら川やらに毎日のように連れて行かれたよ」
「ふふ、アルトって昔から変わってないんですね」
思わず笑ってしまった。容易に想像できてしまう。
「今はまだ落ち着いたほうだよ。もっと酷かった」
オーラさんは苦笑しながら語る。あれよりも、酷いとは。僕だったら音をあげるかもしれない。
「それでね、ある時ふと思ったんだ。いつもいつも振り回されているのに、なんで俺はアルトのそばにいるんだろうって。ガキ大将みたいな奴なのに、なんで俺はアイツの言う事を断らないんだろうって。アイツが無理矢理引っ張り出すから、っていうのもあったんだけどさ」
オーラさんはそこで一泊置いて告げた。
「アルトは俺の初恋だったんだって気づいたんだ」
「え、初恋ですか?」
また驚いた。アルトがオーラさんの初恋…。まさか育ての親であるアルトの恋愛事情を聴くことになるとは。
「惚れた弱みってやつかな。いつもは横暴な奴なのに、ふとした時にこっちを気遣ったり、優しかったりして、何時の間にか好きになっていたんだ」
「それに、アイツの笑顔を見た時、この笑顔を守りたいって思ったんだ。困った時は支えたい、力になりたいってさ」
「笑顔…」
そうだ。ウィルと一緒に居たいと強く思うようになったのは、彼女の笑顔を見てからだ。花咲くような眩しい笑顔。
「あれだけ振り回されたのに、笑顔一つで惚れるなんて我ながらチョロいよね〜、アハハ!」
「そう…ですよね…」
否定出来ない。だが笑うことはしない。だってウィルに抱く気持ちがもしそうであるなら僕も負けず劣らずチョロい。なんなら、幼馴染ではない分、僕の方がチョロいかも知れない。
「告白して、一時期付き合って、別れた。関係は変わった。でも、アイツのことが大切であることは変わらない。困ってたら助けるし、力になる」
オーラさんは、力強く言い切る。嘘など無いように真っ直ぐこちらを見る。
「シオンくんとウィルローナさんがこれからどうなるかは俺にも分からない。今は『まだ』友達かもしれない。この先変わるかも知れない。でも、君は彼女が大切だと言った。一緒にいたいと。関係が変わったとしてもその気持ちは大切にしなよ」
「…はい!」
「後はそうだな、自分の気持ちに気づいたら、すぐに行動したほうが良い。後悔しても時間は戻らないからね」
「はい!ありがとうございます。オーラさん」
「どういたしまして。こんな俺だけど、何かあったら力になるからね」
そのまま、オーラさんと色々な話をした。寝る時間になり、眠りについた。
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