第6話 4人で学園に向かうことになりました。《SIDE:アルト》
私はどうするべきだろうか。こういった経験が少ないため良く分からない。何の話かというと目の前で起こっている光景だ。
待ち合わせの時間に遅れたシオンに説教をしようと待ち構えていると、遠くから近づいてくる2つの人影。男と女のようで仲睦まじそうに腕を組んでいる。それだけならば、何も思わない。恋人か新婚の夫婦か。いずれにせよ、こちらには関係ない。…関係ないはずだった。その片割れが身内でなければ。
「…おい、シオンどういうことだ」
「…色々とありまして、はい、この子、ウィルと一緒に学園に向かいたいんですが、ダメですか…?」
シオンが何故か敬語で告げる。怒られると感じるとシオンがよくやる癖である。
「…説明しろ」
「…はい」
それからシオンの説明を受けた。近くの川で魔法の練習をしていると、少女が降ってきたこと。
ウィルローナ=ユーグベルトと名乗った彼女を助けたこと。
空間転移魔法の使い手である彼女は、シオンと同じように学園への入学希望者であること。
シオンと友達になったこと。
一緒に学園に行かないかとシオンが誘ったこと。
事情が分かり、納得はしたが別の意味で頭を悩ませることになった。
「…つまり、お前は何か?見ず知らずの女を口説いて持ち帰ったということか?」
「…口説いてはいな…いと思いたいのですが、やっぱりそう聞こえる…?」
シオンが不安そうに尋ねてくる。自覚はあったようで、無自覚に比べればまだマシか?いや、変わらんか。
「逆に聞くが、お前の言葉を逆の立場で言われたらどうだ?」
「……」
「…はぁ…。お前なぁ…」
全くこちらの気も知らないでコイツは。どれだけ心配したと思っているんだ。何か事故や事件に巻き込まれたんじゃないか、魔獣に襲われたんじゃないかとヤキモキしていたというのに。まさか女を口説いて、持ち帰ってくるとは思わんだろうが。…怒りよりも先に安堵したが。無事でよかった。
シオンに何かあったら、それこそシオンの両親の「ユウヤ」や「アリサ」に合わせる顔がない。まぁ、それはそれとして
「馬車の中でたっぷりと説教してやる」
「ヒェッ、お、お手柔らかにお願いします…」
「3時間はすると思え」
「すみませんでした…」
◆◇◆
シオンへの説教を終えた私は、少女、ウィルローナ=ユーグベルトに目を向ける。
ぐったりしているシオンに寄りかかりながら、シオンの耳元で話している。いや、話しているというより、囁いていると言った方が良いかもしれない。虫の羽音よりも小さな声で自己紹介してきた時も感じたが、どうやら人と接するのが苦手のようだ。
オドオドとした態度で、シオンの服の裾を掴み、離そうとしない。挙動不審と言ってはあれだが、そう表現するしか出来ない。シオン以外に話しかけられると、目が泳ぎ、小さな声で一言、二言呟くと俯いてしまう。まともに目が合わない。一度も。
「(どうしたものかなこれは…)」
一人考える。ちなみにオーラは彼女の名前を聞いた時からずっと何かを考えているようだ。ブツブツと何かを呟いている。
「…ウィルローナ=ユーグベルト…ユーグベルト…まさか…彼女が…?そんなふうには…いや、しかし…この魔力は…」
オーラが何かを考えている時は、こちらの声にも反応しない。昔から変わっていない。
アルトとオーラはいわゆる幼馴染だ。幼い頃からの付き合いで、パーティを組む前からずっとそばにいた。
「(昔のオーラと似てるか?いや、オーラ以上だな)」
かつてのオーラは引っ込み思案でアルトが(無理矢理)引っ張り出さなければ、ほぼ引きこもりみたいな感じだった。中々目も合わせず、オドオドしていた。そんなオーラを見てきたからか、別に不快になることはない。
「(ただ、色々と不安になるな…)」
この娘大丈夫だろうか?シオンがいなくなったら、生きていけるのだろうか?そんな不安がよぎる。それに
「(シオンは友達といったが、この距離感で友達はないだろ。どう考えても、恋人か夫婦じゃないか)」
物凄く近い。というか密着している。シオンが少し動けば、キスしそうな距離だ。
シオンも満更では無いようで、説教がこたえたのだろう、疲れた表情だが、親しげに話しており、時々頭を撫でている。彼女は嬉しそうに頭をシオンに擦り付けている。…この子猫の獣人だったか?猫の獣人は気に入った相手に頭を擦り付けるらしいが、こんな感じか?
実際本当に友達なのか、否か。違うならどういう関係なのか。むしろここまでイチャついて、まだ友達なのか。もう、恋人でいいのではないか。…いきなり子どもが出来たって言われたらどうしようか。
アルトの頭を色々な悩みがよぎる。ただ、今は
「(…とりあえず、この二人を見守るとするか)」
二人の関係を見守ることにした。思考を放棄したとも言える。
学園への道はまだ続く。このまま何もなければいいんだが。
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