第5話 一緒に学園に向かいます。
良かった。ウィルが笑ってくれた。僕と友達になるのは嫌だと断られたらどうしようかと思った。多分心の中で泣くハメになるかと。内心バックバクだったのだ。
「ふへへ〜。シオンくんシオンくん♪」
すっかり上機嫌になったウィルが腕に抱きついてくる。猫のようにスリスリしている。…距離近くない?年頃の男子としては意識してしまう。肘あたりに感じる柔らかい感触や、髪から漂う花のような香りに恥ずかしさがどんどん上がっていく。心臓バクバクである。
前髪が目元まで伸びているので分かりにくいが、ウィルはかなりの美人だ。綺麗よりの可愛さというかそんな感じだろうか?赤い宝石のような瞳に吸い込まれそうになる。艷やかな黒髪と相まって、神秘的ですらある。…本音を言えば、最初助けた時から見惚れてました。ハイ…。
「(これって友達の距離感なの?女の子の友達ってこんな感じなの?)」
村にいた頃の記憶を引っ張り出す。少し遠くの町に嫁いでいった2歳年上のナナリーはどうだったか。
『シオン〜いい子いい子♪』
『ナナねーちゃん頭撫でられるの恥ずかしいんだけど…』
『いいじゃん。シオン可愛いんだもん♪』
『抱きつかないでよ。村の人が見てるんだから…』
『えへへ~♪ほっぺにチューしちゃえ〜♪』
『ちょ、ま、恥ずかしいって…』
『むちゅー♪』
…こんな感じだったわ。マジか。これが女の子の距離感なのか。勘違いナルシスト男が女の子にこっぴどく振られる笑い話を聞いたことあったし、その時は腹を抱えて笑ってたけど、これはマズイ。勘違いしても仕方ない。
そんなことを考えていると、ウィルがじっとこちらを見ていた。も、もしや変なことを考えているのがバレた…?
「シオンくんお願いがあるんだけど…」
「どうしたの?」
平静を装ってウィルに問いかける。
「シオンくんあだ名で呼んで良い?」
「あだ名?」
「うん。私ね、あだ名で呼べるような親しい人いなかったんだ。だから、シオンくんをあだ名で呼びたいんだけど…」
「良いよ。どんなあだ名?」
少し考えて、答える。あだ名ぐらいなら全然大丈夫だ。むしろ親しくなれたようで嬉しくもある。
「し、シーくん…とかどうかな…?」
不安そうにこちらを見るウィル。そんなウィルを安心させるように笑って答える。
「いいあだ名だと思うよ」
「本当!?ふへへ、シーくん、シーくん♪」
ウィルは嬉しそうにスリスリする。恥ずかしいのは変わらないけど、まぁ、良いか。
◆◇◆
「あ」
「?どうしたのシーくん?」
「待ち合わせの時間過ぎてた…」
ウィルとの会話が楽しくてついつい話しすぎたようだ。10分程待ち合わせの時間を超えてしまった。
「急がないと、アルトがめちゃくちゃ心配しそうだなぁ」
ああ見えてアルトは心配性だ。今頃探し回っているかもしれない。怒られるのは仕方ないとして、心配をかけるのは、あまり好きじゃない。
「それじゃ行こうか」
「あ…」
ウィルがなんだか寂しそうな表情になった。さっきまでニコニコ笑顔だったのに、どうしたんだろう?
「ウィル?どうしたの?」
「…ここでお別れなの?」
「?どういうこと?」
ウィルの言ってる意味がよくわからない。何故お別れになるのだろうか。
「だ、だって…シーくんは、3人で学園に向かっているから。私は違うから…」
「(?…。あ、そう言うこと?)」
ウィルの言う事を少し考えて、答えにたどり着く。どうやら僕は馬車で行くから、ウィルは今から別行動と考えたみたいだ。
そんなウィルを安心させるようにそっと頭を撫でる。触れ合いをしていて気づいたことだが、どうやらウィルは頭を撫でられるのが好きなようで、目を細めて、心地よさそうにしている。
「ふへ…シーくん…」
「ねぇ、ウィル。もし良ければ一緒に学園に行かない?僕学園に知り合いなんていないし、ウィルが居てくれたら心強いんだけど。アルトには僕から連れて行って貰えるように頼んでおくよ」
「!…いいの?」
「もちろん。むしろ、ウィルが居てくれるなら嬉しいよ」
「うん!ありがとうシーくん!」
そうして僕たちは一緒に馬車へと向かった。
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