第3話 拾った少女が目覚めました。
「う、うん…ここは…」
少女の応急処置が済んで、10分ほどした頃だろうか。どうやら気がついたようだ。
「大丈夫ですか?痛むところはありませんか?」
「ふひゃ!?」
声を掛けてみると、少女はビクッ肩を震わせ、こちらを見る。その目には明確な怯えがあった。怖がらせてしまったようだ。
怯えてる少女にこれ以上近づくのは良くないだろう。少し距離を取ってから、先程よりもゆっくりとした話し方を心掛ける。
「怖がらせてしまってすみません。僕はシオンといいます」
「ひゃ、ひゃい…」
「この川の近くで休んでたら、貴方が空から降ってきまして、気を失っていたようなので、ここに運んだんです」
思わず敬語になってしまうが、事実ではある。
「あ…。そっかあの時…また、やっちゃった…」
少女が小声で呟いていた。
『あの時』『また』『やっちゃった』
身体強化を施している為か、少女の呟きを聞いてしまった。どうやら何かがあったことは間違いないようだ。
「あ、あの、わ、私、その、えっと…」
少女が何かを告げようとしているのが分かった。少女の言葉を待つ。
「あ、ありがとうございます…。そ、それとご迷惑をお掛けして、すみませんでした…」
「どういたしまして。痛むところはありませんか?」
「は、はい…大丈夫です…」
「良かった。魔札で簡単な治療をしたんですが、慣れないものでして」
「魔札…。も、もしかして魔法使いの方ですか…?」
「はい。まだ見習いの様なものですが」
はて?魔札は魔法が使えない人にも使用可能であり、使ったとしても魔法使いとは分からないのでは?
「や、やっぱりそうですよね…。私の服から貴方の魔力を感じまして…。ま、間違いだったらごめんなさい。もしかして、川に落ちた私を助けて、服を乾かしてくれたんでしょうか…?」
僕の疑問に答えるように少女は言う。なるほど、魔力を感じたのか。
「助けたというか、受け止めようとして、一緒に川に落ちてしまったといいますか、僕がしっかり受け止めていれば、貴方はずぶ濡れにならなかったかもしれません。そこは申し訳ないです」
情けないことだが、助けたと言うには微妙である。結局、彼女は気絶して、ずぶ濡れになったのだから。そんな僕に少女は目を見開く。
「え、え!?受け止めてくださったんですか!?お、重くてすみません!!」
「違いますよ。僕が、川底で足を滑らせてしまったんです。貴方が重かったわけじゃありません」
「で、でも、う〜…」
少女は何か唸っているようだが、実際そんなに重いと感じなかった。身体強化を使っていたのもあるが。
「後、僕は水属性が得意でして、濡れたままでは風邪を引いてしまうと思い、服から水を抜きましたが、もしかしてご迷惑でしたか?不快に思われたなら謝ります。すみませんでした」
素直に頭を下げる。うん。言われてみればそうだよね。いきなり知らない人からそんなことされても、迷惑でしかないのかもしれない。
そんな僕に少女はブンブン!!と首を横に振った。
「ち、違います!そうじゃないんです!わ、私、嬉しくて、だから、その、えっと…」
「た、助けていただき、本当にありがとうございました!!」
少女が勢い良く頭を下げた。出会ってから一番の声量だった。
◆◇◆
「ノヴァ学園?し、シオンくんも入学の受験なの?」
少女はウィルローナ=ユーグベルトと名乗り、アガルタ山脈の向こうから来たそうだ。同い年ということで、さん付けも敬語も不要とのことなので普段通りの口調で話している。
「そうだよ。ウィルもなの?」
「う、うん。お家に入学届が来て、向かっている途中だったんだ」
「そうなんだ。でもどうやってここに?」
アガルタ山脈はここから一ヶ月はかかる。道中も、険しく、山登りのプロでも苦労する山脈だ。ただ、彼女の荷物は小さな肩掛け鞄一つ。とてもあの山脈を越えられる装備ではない。それに、突然現れた理由は何だろうか?
「あ、あの、信じて貰えるかわからないけど、私空間転移の魔法が使えるの…」
「く、空間転移!?凄いねウィル!あ、でも、そっかウィルが突然現れたのは空間転移の魔法だったのか!」
「し、信じてくれるの?」
「もちろんだよ。ウィルの言う事は疑わないよ」
出会って少ししか経っていないが、ウィルが嘘をつくような子ではないことは確かだ。それに、突然空から降ってきたのも納得だ。
「ふ、ふへへ。ありがとう。シオンくん。中々信じてくれる人いなくて…」
ウィルが初めて笑った。花のような笑顔だ。
「こちらこそありがとう。そんな大事なことを教えてくれて」
「し、シオンくんだからだよ。私人見知りが激しくて…」
「そうなの?今は普通に話せていると思うけど?」
確かに最初は怯えられたが、あれは仕方ないと思う。目が覚めたら知らない人が近くにいて、話しかけてくるんだし。だけどウィルは首を横に振る。
「私、昔から人見知りで人と接するのが苦手で、いつも避けてたの…。知らない人から話しかけられると、焦って、頭真っ白になって、気が付くと空間転移の魔法を使ってしまって…」
「…もしかしてさっきのは」
「…うん。知らない人に道を聞かれだだけで、転移しちゃったんだ…」
「…そっか」
確かに人見知りが激しいようだ。空間転移の魔法は簡単に扱えるものではない。ウィルが凄いのは分かるが、話しかけられただけで使うのはよっぽどである。
「どうして…、私…いつもこうなんだろう…自分が嫌になる…こんな性格だから友達もいないんだ…。っグス…」
ウィルは目に涙を少し浮かべ、自己嫌悪してしまっている。ウィルの事情は分かった。だが、僕に何か出来るだろうか?長年の人見知りが簡単に改善出来るならウィルがすでにやっているだろう。人の悩みをあーだこーだ言うのも何か違うと思う。
…いや、まだ望みはある。こうして出会えたのだから。だから僕は提案した。
「ねぇ、ウィル」
「…なに?」
「僕と友達になってくれないかな」
「…え?」
「僕もさ、友達が欲しいんだ。村で同年代の子がいなくてさ、友達はあまりいなかったんだ。友達になってくれた人も余所に嫁いでいったり、他の街に行ったり」
ウィルに友達がいないなら、僕が友達になる。
考えた末に出た方法がこれだ。ありきたりで陳腐な内容だろう。なんなら自分勝手でもある。もっと頭の良い人なら他の方法もあったかもしれない。そんな内容しか思いつかないのかと笑われるかもしれない。そもそもウィルがどう思っているかが大事だ。嫌だと言われたら素直に諦めるしかない。
でもウィルをこのまま放おっておけない。自己満足だろうがなんだろうが、ウィルには笑顔になってほしい。だから言葉を紡ぐ。
「もしも、お互い入学できたなら、僕は君と一緒にいたい。出会ってまだ数分だけど、ウィルと行きたいところも、やりたいこともたくさんあるんだ」
後になって考えてみると、ウィルとの関係はこの言葉から始まった。少し恥ずかしい。でも、取り消すつもりはない。後悔などあるわけがない。
「だからウィル、嫌じゃなければだけど」
一泊を置いて注げる。これからの運命を決定付ける言葉を。
「僕と初めての友達になってください」
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