第1話 学園に入学することになりました。

「…私の力不足だ。私を恨んでくれていい。だが、頼む。この村を救うため、学園に入学してくれないか?」

「……」


アルトが頭を下げている。普段の彼女と違い、その姿は何だか弱々しく見えた。


「…頭を上げてよアルト」


「…私は頭を下げることしか出来ない。頼むシオン」

アルトは頭を下げ続けており、表情は見えない。だが、声から申し訳ないという感情が伝わってくる。


「頭を上げて、アルト」


「しかし…」


「…色々とさ、言いたいことや、聞かなきゃいけないこともあるんだけど、でも」


そこで一泊置いて告げる

「僕、学園に入学するよ」


「!!。…本当にいいのか?学園に入学すれば、危険が付き纏うだろう。死ぬことすら当たり前のような学園だ。…本音を言えば、絶対に行くなと言いたい。だがしかし、行かなければ村が…。すまない」


アルトは迷っているようだ。背負わせてしまった責任、シオンを守ることが出来ない自分の弱さ、村のことも。自分一人で全部背負おうとしている。


そんなアルトに思わず笑みが溢れる。普段はあれをしろ、これをしろと口喧しいくせに本当に優しいな。


「別に僕が学園に通うのは国に言われたからじゃないよ。ただ、この村やアルトに何か返したいなって思ったんだ」


「……」


「それにさ、何だか面白そうじゃないか。転生者や転移者の子孫だよ?色々と変わった技術や知識とかありそうだし楽しみでもあるよ?新しい友達も出来るかも!」


それは、決して強がりだけではない。今まで学園といったものに通ったこともなく、この村で過ごしてきた。自分には関係のない世界だと選択肢から除外して。だけど、実は憧れでもあった。


学園に通えば様々な経験や新しい友達、ひょっとすると、恋人が出来るかもしれない。シオンとて、一人の健康的な男子だ。興味がないと言えば嘘になる。そう思うと怖い反面、楽しみでもあるのだ。


両親や次元龍のことは一旦置いておくとして、学園に通うのは悪くないんじゃないかなと思った。…死ぬのはごめんだから、必死に頑張らなきゃいけないけど。


「…本当にいいんだな?」


「二言はないよ」


「…分かった。ありがとうシオン。…では、これから入学する為に剣術や魔法、勉強を徹底的に鍛えるぞ!お前の命がかかっているんだ、妥協はしない。」


「お、お手柔にお願いします…」


「安心しろ。必ずシオンを私よりも強く育ててみせる!」


「趣旨変わってない?」


そんなやり取りのあと、入学までに出来ることを始めた。


〜1年後〜


アルトからの熱烈な指導(地獄)のおかげで、村一番の実力を手に入れる事が出来た。剣術はDランクの魔獣がギリギリ倒せる程度の実力から、Cランクの魔獣が倒せる、上手く地形や環境を利用すれば、Bランクにも届くぐらいにまでなった。


魔法は、アルトが苦手なため、アルトのパーティにいたオーラという男性の魔法使いを呼んでもらって、正しい魔法の使い方を教えてもらった。


オーラさんはアルトと同い年のようだが、雰囲気はアルトと真逆だ。


柔らかい色合いの金髪に、タレ目気味の碧眼、身長はアルトと同じぐらいか、少しだけ高い。体格は鍛えていることが服の上からでも分かるアルトに比べて、細身であり、ゆったりとしたローブを纏っている。手には木で出来た杖をもっており、魔法使いといえばといった格好である。


オーラさんから学ぶ魔法は新鮮そのものだ。今まで知らなかった魔法や効率のいい魔力の使い方、初心者でも出来る魔導具の作り方等。…独学でやっていた為、かなりめちゃくちゃなやり方をしていた様で、こんな鍛錬のやり方で良く今まで生きてたねと軽く脅された。いつ暴発してもおかしくなかったそうな。魔力自体は一般魔法使いよりも大分多いらしく、そのおかげで運良く生きてきたようだ。


勉強?うん。地獄。アルトが教えるといったくせに、その方法が教本全ページ丸暗記しろとなんとも脳筋すぎるやり方だった。いや、わかるよ。暗記するしかないことも。でもさ、数百ページだよ教本?しかも一冊だけでなく何冊もあるんだよ?魔法以外の勉強に関して今までやったことないのに、中々無理難題な気がした。やるしかないけどさ。見かねたオーラさんが効率のいい勉強方を教えてくれなければ、心が折れていたと思う。


◆◇◆

そんなこんなで入試まで残り8日ほどとなった。試験会場であるノヴァ学園は、馬車を使って4日ほどかかる。道中のトラブルを想定して、早めに出発することになった。明日の明朝出発する。出発前夜ということで村の人々を呼んで小さなお祝いをしてもらった。今まで食べたことのない料理が並んでいた。凄く美味しそうだ。


「まさか、シオンが学園に行くことになるとはな。寂しくなるよ」


「本当ね。あんな小さかったシオンがねぇ」


「シオンにーちゃんいつでも帰ってきてね。待ってるからね」


「今度帰ってきた時、学園での思い出を聞かせてよシオン」


「あっちでも元気でねシオン」


村の人たちから祝福の声をもらっていると、隣にアルトが腰掛けてきた。


「シオン」


「どうしたのアルト?」


「これからの段取りについて話しておこうと思ってな。明日の明朝この村を出発する。学園につくまで約4日。この間私とオーラがシオンを護衛する。ここまではいいか?」


「もちろん」


「途中での村で休憩を挟みながら進む。大分余裕を持たせているが、道中のトラブルを想定すればこんなものだろう。早く着いたなら少しは観光も出来るかもな。学園に着いたら手続きを行う。その後は宿を取り、受験まではその宿で生活する事になる」


「受験に関しては、初日に筆記試験を行い、2日目に実技試験を行う。実技に関しては体術か魔法、あるいはその両方だ。3日目は面接を行う。学園長自らの面接だ。緊張はするだろうが、落ち着いてやればお前なら問題ない」


「試験が終われば7日ほどで合否判定が出る。そこで合格出来れば晴れて学園生だ」


「分かってる」


「ならば良しだ。シオンお前は本当に強くなった。私を超えるぐらいにはな」


「だが、決して油断はするなよ。あの学園のことだ、何があっても不思議じゃないからな」


「心得ています」


「もう少し話していたい所だが、明日も早い。私はもう寝る事にする。お前も早く寝るんだな」


「ありがとうアルト心配してくれて」


「こんなことしか出来ないからな」


「うん。おやすみアルト」


「おやすみシオン」


その後、村の村長をはじめとした人達から餞別の品を渡され、明日も早いからと眠りについた。明日はついに出発だ。










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