プロローグ

(ついにこの日が来たか……。本当どうしよう……)


シオンは内心バクバクしていた。ここから始まるんだ。



国立ノヴァ魔導学園

転生者や転移者の子孫達が通うことになる、国家魔法士育成専門の学園である。「魔獣」と呼ばれる人類を脅かす存在からの襲撃や、異界からの来訪者に備え、力ある魔法使いの育成を目的として設立されたものである。ただ、それは建前であり、別の目的がある。


転生者は特別な力を持つ。村や街はおろか、国を相手取るような規格外な者もいる始末だ。事実たった一人の転生者によって、される大惨事が起こる。『蒼天』と呼ばれる魔法使いが歴史に名を残した瞬間である。


皇族や貴族はこれを重く捉え、転生者達を討伐しようと企んだこともあったが、あっさりと敗れ、結果としてノールズ連邦王国の一部を転生者達に譲った。譲ったのは小さな国だったが、転生者の力により瞬く間に発展した。これがアルバ国だ。


一応の決着はついているとはいえ、また暴れられたらたまったものではない。天災レベルの被害が出ては遅いのだ。


このため、か弱き人々を守るという名目で転生者達の子孫をこの学園に通わせ、監視や制御を行うことを定めた。


それがこのノヴァ学園である。


シオンは辺境にある小さな村の出身である。名はニル村。名産品はなにかと聞かれると「ないんだな、これが」と答えるしかないぐらいに、特筆すべき点がない村である。


そんな村の出身であるシオンがなぜこの学園にいるのか、それは誕生日に告げられた事実が原因である。


シオンの両親は既に他界しており、アルトと呼ばれる女性の元で育てられた。


アルトの年齢は30歳前半だが、実年齢よりも10歳は若く見られる。燃えるような赤髪。意思の強さを感じさせるツリ目がちの瞳。女性としては長身で鍛えられた肉体。


アルトはかつて凄腕の冒険者だったが、冒険中に深い傷を負い、そのまま引退した。旅をしている最中に見つけたニル村にそのまま定住することとなった。


シオンの14歳の誕生日。ささやかだが、村の住人からプレゼントやお祝いの言葉をもらい、小さな幸せを噛み締めていた。そんな夜のこと。アルトが真剣な表情で部屋に入って来た。


「シオン。話があるんだ。」


「どうしたのいきなり。」


「大切なことなんだが…」


アルトは眉をひそめ、口籠っていた。いつもは良くも悪くもハッキリ物を言うアルトにしては珍しい態度だった。そんなアルトに内心驚きながら、言葉の続きを待った。


「…その、なんだ、私は、シオンのことを実の息子だと思っている。だから言おうかどうか迷っていたんだが…」


そこで一泊おくと

「シオンの両親のことについてなんだ」


「シオンは両親のことはどれぐらい知っているんだ?」


「ん〜。冒険者だったってことと、魔獣と戦って命を落としたってことぐらいだけど…」


「そうだな。それは合っている。それ以外はどうだ?」


「ん〜。それ以外と言うと、アルトとパーティを組んでたことぐらいしか知らないんだけど」


「そうだ。私達はパーティを組んでいた。そして、お前の両親は魔獣と戦い死んだ。赤子だったシオンを私に託してな」


「うん。それは聞いたことがある。それがどうしたの?」


「…お前の両親が挑んだ魔獣。それは次元龍だ」


「次元龍!?」


アルトの言葉につい大声を出してしまう。だが仕方ないことだ。


次元龍とはその名の通り次元を操る龍であり、国が定める魔獣の危険度の最上位であるSランクに位置する魔獣である。


魔獣のランクは上からS→A→B→C→D→Eと定められており、次元龍はSランクの中でも特に気性が荒く、最強の一角と名高い龍である。


国家の兵士全てを総動員しても、討伐は不可能と言われている。そんな次元龍を討伐…


「何でそんな…」


言葉が出ない。どうしてそんなことを…


「お前の両親はノヴァ魔導学園出身なんだ。そこからの依頼で討伐することになった」


「ノヴァ魔導学園?え、まって。そこって転生者や転移者達の子孫達が通う学園だったんじゃ…」


「そうだ。シオン。お前の両親は転移者だ」


アルトは告げた。シオンの目を真っ直ぐに見ながら。


「両親が転移者…。ノヴァ魔導学園の生徒…。次元龍討伐…」


何を言えばいいのか分からなかった。受け止めきれず、ただ言葉を反芻する。頭の中がぐるぐると回る。

アルトはそんな僕を申し訳なさそうにしながら、続きの言葉を紡ぐ。


「…言わなければいけないことはまだあるんだ。

シオンに学園への入学届が来ている。来年度入学しろと国からのお達しだ」


「学園?入学?え、何で?」


「…お前が転移者の子供だからだ。国としては学園で管理したいんだろうな」


「で、でも、僕何も出来ないよ!剣術だって魔法だって平凡だし!そんな僕が学園に行っても仕方ないでしょう!?」


剣術に関してはアルトに学んでおり、Dランク程度の魔獣をなんとか相手に出来る程度の実力はある。ただ、一般兵士はDランクの魔獣と戦えるのが最低条件だ。シオンの剣術はまだ弱い部類だろう。


魔法に関してはアルトが苦手なので独学である。魔法の分類の一つである属性魔法は、火、水、土、風、光、闇、無の合計7つ。得意な属性について正確に計ったことがないため、断言出来ないが、どうやら「水属性」と「土属性」に適正があるようだ。


剣術も魔法も平凡だとシオンは感じていた。だが、アルトはそうは思っていなかったらしく、首を横に振った。


「やはり、気づいていなかったか。剣術は私についで、この村では2番目に強い。村に近づく魔獣達を相手取ってきたおかげか、打たれ強く、咄嗟の判断に優れている。戦場での適応力には、目を見張るものがあるよ。Eランクとはいえ、数十匹のゴブリンを相手に常に有利に立ち回っていただろう?あれは見事だったぞ」


「魔法もそうだ。お前の水魔法と土魔法は既に一般魔法使いを上回っている。それも独学でな。私とパーティを組んでいた魔法使いは驚いていたよ。元々魔力は多い方だったが、鍛錬によって更に増加している。今ではEランクの魔獣なら、魔力をぶつけるだけで消滅させることもできるだろうってさ」


「それに加え、魔法の扱いも一流だったと。近くの川が氾濫した時、村に被害が出ないように水と土をうまく制御したのだろう?何をしたのか私にはさっぱりだったが、あいつが言うにはこれが出来るまで、普通は2年はかかるそうだ。お前のお陰で村への被害は最小限で済んだ。その年で大したものだと言っていたよ。これは、間違いなくお前の才能と努力の賜物だ」


「魔法に関しては、私から教えることは出来ないが、お前の腕があれば、入学するにあたっての実技試験は問題ないだろう。筆記についてはこれから教えよう」


「えぇ…。いや、でも…」


「…すまない。シオン。国からの通達は絶対だ。従わなければ、この村を潰すと遠回しな脅しをしてきた。」


「そんな…」


「…私の力不足だ。私を恨んでくれていい。だが、頼む。この村を救うため、学園に入学してくれないか?」


アルトは何度も頭を下げていた。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る