チートな世界の片隅で〜隣の君は大魔法使いでした
高野ヒロ
隣の席の陰キャ美少女魔法使いとペアになりました
「ねぇシーくん」
ノールズ連邦王国
その一つであるアルバ国
ここはかつての転生者が築いた国である。
小国ながら、肥沃な土地に豊かな資源、多種多様な農作物、海にも面しており、魚介類も特産品の一つだ。そして何よりこの国に住む人々。
転生者や転移者の子孫たちが集まっており、国全体の魔力密度が他国に比べ百倍程大きく、魔法も発達している。
他国からの侵略はないこともないが、国全体が結界に守られており、外部からの侵入は困難を極める。
何より、莫大な魔力を持っていたり、固有魔法を持つ転生者の子孫を怒らせて、再び滅ぼされることを恐れる国も多い。
そんな国に一つの学園がある。国立ノヴァ魔導学園である。
国立ノヴァ魔導学園 1‐A
隣の席にいる少女が話しかけてきた。
彼女の名はウィルローナ=ユーグベルト。
通称ウィル。まごうことなき美少女である。
艷やかな黒髪ロングヘア。宝石を思わせる真紅の瞳。潤いを帯びた桃色の唇。雪のように白くきめ細かい肌。172cmと女性としては高めの身長であり、豊かに実ったバストに反して、無駄な脂肪のないウエスト、安産型のヒップとモデルでも可笑しくないほどのスタイル抜群の身体。オドオドとした少し暗い表情や、挙動不審な態度、極度の人見知りでなければ今頃引っ張りだこになっていることだろう。いや、現在でも引っ張りだこか。
何故なら、ウィルは『薄明の魔法使い』の異名をもつ、世界に10人しかいない大魔法使いの一人である。特別戦略魔法士とも呼ばれ、魔獣から人々を守る魔法士の中でも、最上位に位置する。
彼女は良い意味でも、悪い意味でも有名だ。何処にいても人から注目を浴びる。それぐらい彼女の名は世界に轟いている。
ただ、彼女は人と接するのが大の苦手だ。僕や親しい友人以外から話しかけられると、すぐさま距離を取る。それも普段の彼女からは考えられない素早さで。これでもまだマシになった方なのだ。
以前は知らない人に話しかけられただけで、空間転移魔法を使用していた。以前それで大変なことになったのだが、それはまた別の話。
そんな絶世の美少女に抱きつかれている僕の名は
シオン。最近ようやく180cmを超えた一般男子生徒だ。
この世界、というかこの学園背の高い生徒がやたら多く、180cmぐらいなら歩けばすぐ見つかるのだ。同学年で200cm超えてる奴が3人もいる。一般的には背の高い部類だが、この学園では目立たない。
母親譲りである銀髪に緑に近い色合いの瞳。父親譲りの筋肉質な身体。
両親についてだが、あまり詳しいことは知らない。写真で分かるのは容姿のみ。それ以外で知っていることは、異世界からの転移者であること、この学園の卒業生であること、Sランクの魔獣『次元龍』と戦い、死んだことぐらいである。
そんな両親の息子であるのだが、今のところ特別な力は発現していない。強いて言えば、一般的な魔法使いよりも魔力が多いことぐらいか。
「どうしたのウィル?」
「これから黒龍の討伐なんだけど…」
「うん。頑張ろうね」
「うん。シーくんの為なら黒龍を狩り尽くすよ?」
「落ち着こうウィル。ダンジョンに最近出没する1体だけだからね?」
ウィルはたまに暴走する。普通なら冗談にしか聞こえないが、ウィルが本気であることは身に沁みて分かっている。そんなところも可愛いのだが。
「え、あ、うん。分かってるよ?…あのね。黒龍の核って最上級の素材でね。そ、その、えと…」
「?」
「非常に頑丈で武器や道具の材料にするとよっぽどのことが無ければ壊れないし、末永く使えるの」
「まぁ、龍種の中でも最上位の黒龍だしね」
魔獣の核は上位になればなるほど、素材としての価値は上がる。龍種、それも黒龍ともなれば、世界に2つとない装備が出来るだろう。例えば山を砕き、海を割るぐらいのことは容易に出来そうだ。それぐらいの力を秘めている。
また、非常に貴重な代物で冒険者ギルドにでも売れば一生を遊んで暮らせるだけの莫大な資金が手に入る。
「そ、それで指輪を作ったらずっと使えるかなって」
「指輪か。ウィルは欲しいの?」
「うん。…シーくんとおそろいの指輪が欲しいです…」
モジモジと、指をつき合わせながらウィルは言う。その顔は真っ赤に染まっており、俯いてしまっている。可愛い。可愛すぎる。
「よし、分かった」
「え、えと、それって…」
「黒龍の核を使って指輪を作ろう」
「!!!」
「いつもウィルにはお世話になっているし、僕がプレゼントするよ」
「シーくん!!…っグス…嬉しいよぉ…」
「泣かないでよ。まだ始まってもいないんだから」
「うん。私頑張るね。…指輪…ふへ、ふへへ!!」
ウィルが笑った。まるで大輪の花のような眩しい笑顔だ。僕が大好きな笑顔だ。
そう言えば言い忘れてたことがあった。彼女との関係だが、相棒で恋人である。そして婚約者となった。
最初の頃は戸惑ったが、すぐに肯定するようになった。僕がウィルに惚れて、両思いだと分かってからの婚約だから、むしろ嬉しいぐらいで、何の問題も無い。卒業まで僕が我慢出来るかが問題なだけである。…本当なら、すぐにでも式を挙げたいが。新婚旅行はどこに行こう?
「さて、それじゃあそろそろ行こうか」
「うん!私頑張るね!」
「黒龍討伐出発!!」
「おー!!」
ウィルとの出会い、それは僕が14歳の誕生日まで遡る。あの日から君との運命が回りだした。偶然が重なり、必然となるまで。
これは異世界の片隅。チートな奴らしかいない学園隣の君と紡ぐ物語である。
◆◇◆
高野ヒロです。
短編を除くと初投稿となります。拙い部分も多くあるかと存じますが、気長に読んでいただければ幸いです。誤字等はご指摘いただければありがたいです。よろしくお願いします。
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