第2話

「でもさ、村田の影響で成績下がるのも嫌じゃね?」

 今さら涙でぐしゃぐしゃになった顔をみんなに見られたくない、と佐奈は言った。

「じゃあトイレで整いてきなよ。そこまでトイレの前まで俺も行くし、その後ろで隠れてたら見られないでしょ」

 思わず顔を上げると、山岸はやや俯きながら微笑んだ。気遣いで顔を見ていないのか、単に目を合わせるのが苦手かわからないけど、村田への怒りより山岸と話す新鮮味の割合が胸を占め始めた。

 佐奈がトイレから出てくる頃にはチャイムはすでに鳴り終わっていたが、山岸は口に出すこともなく「教室行く? それかサボる?」と聞いてきた。

「山岸くん付き合わせちゃって悪いし、行く」

 佐奈は山岸の顔を見ると、今度はしっかりと目が合い、笑ってくれた。

 昼休み、山岸は佐奈と一緒に村田のところまで来てくれた。何度断っても「俺も前々から村田に言いたいことがあったからちょうどいい」と言うばかりだった。教室を出るときに、山岸はいつもの男子グループに茶化されていたが、適当にあしらっていた。

「お前は呼んでないぞ、山岸」

「村田先生は鳥井さんに『一人で来い』とは言われていないので問題ないですよね?」

「屁理屈言ってんじゃねえ。帰れ」

「鳥井さんの弁護人として来たので帰ることはできません」

 村田の顔は露骨に歪んだが、山岸から視線を外して佐奈を見た。

「制服を着崩すと風紀が乱れることくらいわからんのか、鳥井は」

「お言葉ですが、服装を正せよというなら、まずは先生から見本を見せていただかないと困ります」

 山岸は淡々と言うと、村田の視線は再び山岸に移った。

「どういうことだ?」

「村田先生の服装はどう見ても乱れています。ジャージとカッターシャツの組合せなんておかしいじゃないですか?」

「どこが?」

「僕の父は毎日スーツですが、ジャージで出勤すると上司に怒られるに決まっているだろうと言います」

「お前のお父さんはスーツを着て出社するというのが規則だからだろう。俺は普段は服装など決められていないからいいんだ。」

「でも、村田先生の変なファッションより、鳥井さんの方がよっぽど正しい服装してますよ」

 村田は一度つばを飲み込んだ。

「馬鹿にしてんのか」

「じゃあ、今から僕、聞いてきます。鳥井さんと村田先生、どちらの身だしなみがおかしいか」

 村田が何を言ってもすぐに山岸は言い返してくれた。結局村田は顔を真っ赤にして「今日はいい。教室に戻れ」と言って終わった。

「山岸くんのおかげで助かった」

「いや、俺は鳥井さんを利用して村田に言いたい放題言っただけだから……」

 教室の前で山岸は立ち止まった。「あと……」山岸は眉毛を掻きながら言った。「俺のことギッシーて呼んで。それの方が距離感遠くなくて話しやすいし……」

 佐奈が小さく頷くと、山岸は先に教室に入ってグループに混じった。

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