イセカイの創作者

アクネメ

第1話 運命は混ざられた





「運命がカードを混ぜ、我々が勝負する」

           ショーベンハウアー




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「〜と、いったように、思い込みの法則はないんだ。今のところは量子は不規則に観測されている。」


一人の生徒が教室の端っこで小さい身長を補うかのように必死に細い腕を伸ばしていた。


「アインシュタインの言った『神はサイコロを降らない』はそこから来ているのですね?」

「よく予習をしているな。そうだ。」

「ではもし量子の揺れ方の法則が分かればは、私達の未来は、予測あるいはコントロールできますか?」


彼女の質問の後を辿るように誰かの微笑が微かに静かな教室に響く。


「アインシュタインはこの宇宙において法則がないものはないと考えていた。だが私達の運命はどうだろうね。しかしながら私達の賽はすでに投げられている。解明するために俺と君は生きているのさ。」




ある男は先ほどの質問が頭の片隅に住みつき始めたせいで当初の目的である食堂へ行くのを忘れて図書館に向かっていた。


彼の名前は斉藤 拓磨。大学にて物理学を教えていた。そんな彼だが哲学や演劇を好んだりする一面があった。

そう、彼は哲学書を探しに図書館へ向かっていた。



彼はとある書を開き、とある言葉に目を向けた。

彼もまたに囚われているのである。


彼は幼少期に父親に連れて行ってもらった都内の演劇にて心を動かされていた。


「なんて素晴らしい物語なのだろう」

「なぜこんなにも不幸と幸せのバランスが取れているのだろうか」


その反面、とある疑問も浮かんでいた。


「なぜ、彼女をあそこで退場させなかったのだろうか。」

「彼をここでは料理人にすればよかったのでは」


そこから色々な本、小説に取り憑かれたように読み始めた。あらゆるパターンを知り、また新たなるアイデアが彼の頭に溢れていた。


高校生になった彼は勉強を疎かにしていたせいで周りとのギャップに悩まされていた。


「なぜ、同じような人がいないのか」

「私は世間の中では変わり者なのか」


そんな時にとある二つの運命のカードを選んだ。


一つ目はとある哲学者である。

彼が孤独だったとき、偶然選んだ本にはある

言葉が綴られていた。何気ない一行だ。



「孤独は優れた精神の持ち主の運命である」

            ショーベンハウアー



彼はこの言葉にどれだけ救われたのか分からない。

哲学は彼のような人に対してある種の人生の歩み方を教えてくれていた。


二つ目はそんな哲学にのめり込み、図書館に入り浸っていた彼に興味を示した気難しい物理教師だった。


「なぜ、そんなにも狂った犬のように哲学を学ぶ?」


彼はなんと答えれば良いのか、頭では分からなかった。が、自然と答えが出ていた。


「運命をコントロールするため」


彼の言葉を聞いた物理教師は数秒間、口を閉じていた後、彼に「物理を学べ」と促した。

「なぜ?」と聞くと「物理学を使えば物体の動きを予測することができるからだ」と答えた。


放課後、二人だけの教室で物理を学び始めた彼は、当初は思っていたものと違うものの、物理世界に深く沈み込んでいった。




そして現在に至るわけである。

彼は本棚の上の方にある本を取りたく、手を伸ばす。そんな体勢の中、大きな地震によって床が激しく揺れ始める。


彼は「しまった、」と思った。

なぜなら彼の目の前には倒れかけの自分よりも何倍もある本棚がそこにあったからだ。





気がつくと彼は大きな古時計の前に立っていた。


(ここはどこだ?)


周囲を確認するように歩き回ると、どうやら古い館のようだった。

窓と階段を見つけたことによってここが1階以上だとは認識できたが、窓の外はただ暗闇が広がっているだけだった。


彼は窓に反射して古時計の前に女性が立っていることに気がつく。


「誰だ?!」

「...お前は部外者だ。」


同じ生き物のような生気はかんじられず、どこまでも虚空が広がっているような人物がそこにはいた。


「第二の人生をくれてやろう。だが代わりに片目と我の命を随時聞け」

「俺は死んだのか、」

「ああ。早く答えろ。代わりはいくらでもいる」

「...これだけ教えてくれ、あんたは悪魔か?」

「さぁな。そんなことはどうでもいい。我はお前にチャンスを与えるものであり、お前は我の命を聞くものだ。この時計が12時を指す前に決めろ」


その古時計は残り10秒ほどで12時に長針が辿り着きそうになっていた。


「わかった。頼む、新たな人生をくれ」


彼は彼女が悪魔だと分かっていたが、どんな理性的な頭でも生が賭けられれば抗えなかった。


「契約成立だ」


その言葉と共に片目に暗闇が広がり、彼女の上半身が目の中へと入り込んでくるような感覚に襲われる。そして激痛が麻酔として空の眠気を誘った。


彼はすでに意識、そしてを失っていた。








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