第6話【テラ・ニーチェの視点そのに】
【テラ・ニーチェの視点:王都】
イヴァンと僕は、日暮れ時に王都へ着いた。
ときおり彼がついてきているのを確認しながら、細い路地を歩く。
その先はギルド特区、魔法を用いて空間を拡げた街だ。
その広さは一つの小国に近いほどで、様々な人が住んでいるところである。
「ここが、ギルドが管理している街です。」
「街の中に…街…?」
僕は彼に説明をして、雑踏の中を進もうとした。
「……行きましょう。」
どうやら、イヴァンの様子がおかしい。
上の空と言うより、絶望に染まったような表情をしていた。
「どうしたんですか?」
僕の問いに、彼は苦しげな返答をした。
「あ…だいじょーぶ…です……」
こ、こわ、そんな音が小さい声が彼の口から連続して聞こえた。
肩に手を置いて、顔を覗き込む。
「本当に大丈夫なんですか?」
そうやって言うと、イヴァンは徐々に正気へと戻った。
本部への道のりは、それ以外普通だった。
荘厳な見た目の洋館へ入ると、ミトラが声をかけてきた。
「テラさんテラさん!」
「ああミトラさんでしたか、戻りましたよ。」
彼女は焦げ茶のふわふわしたボブヘアーを揺らしながら、お転婆娘らしい口調で返事をする。
「どうでした?鑑定結果!いや〜、気になっちゃいますね!」
僕はミトラに、羊皮紙を手渡した。
「ふむむ…へえ……ん?!」
ミトラは動揺して震えた声で続ける。
「あ…あの…この子……もしかして、"神産み"で生まれた子…?」
「そのようです、ちなみに彼の名前はイヴァン・エンキですよ。」
僕は彼の名前も告げた。
しばらくは三人で談笑をし、イヴァンとは別れた。
【テラ・ニーチェの視点:龍災】
皆が寝静まった夜、見廻りをしていた者が鐘を鳴らして叫ぶ。
「龍災だ――!皆、本部に避難しろ――!!」
龍達は飛ぶものばかりで、上空から火球を吐き出していた。
本部の外に居る者は、敷地内に押し寄せている。
なぜなら、本部は多重結界…それもかなり強力なものが展開されているからで、並の災害では傷一つつかない。
僕とミトラは、カウンター近くに立ち、窓を見つめていた。
「もう、火の手がこんなに…」
ミトラが呟く。
階段からドタドタと足音がすると思ったら、イヴァンが降りてきた。
「テラさん!ミトラさん!何があったんですか!?」
ひしめき合う避難者たちをかき分けながら、僕たちのもとへと向かう。
「これは龍災ですね…!龍が起こす災害で、我々ギルドはこれを対処するのが仕事のうちなんです。」
ふっと、何らかの景色が頭に浮かんだ。
武器倉庫、それもギルド本部のものだ。
あそこなら、使える武器があるのかもしれない。
僕は裏口に向かい、イヴァンに手招きする。
「武器倉庫に行くので、ついてきてください。」
彼は強情にもついていこうとしない。
「お…俺…武器使ったことが…」
ええいまったく!これだから金持ちのガキは!!
「いいから早く!」
僕は彼に喝を入れ、腕を引っ張って行った。
武器倉庫にやっとこさ着くと、杖か魔導銃のどちらかがないかと手当たり次第に漁る。
魔法を使うのは、イメージが大切だ。
杖はイメージがつかみにくいことがある、そういう人は魔導銃を使うという話を以前聞いたのを思い出し、訓練用のものを彼に手渡した。
「訓練用の魔導銃ですが、霊雷であればそれなりの威力を出してくれるでしょう。……耐久性には目を瞑ってください。」
イヴァンは魔導銃を受け取ると、僕より一歩早く武器倉庫を踏み出た。
【対抗】
やはり、彼は一切の武器を使ったことがなかったらしい。
撃ち方が分からず、慌てていた。
「何をもたもたしているんですか!念じながら引き金を引くんです!!」
もう、彼の頭上に急降下している個体が見える。
「オラァァァ!行っけえぇえええぇえええ!!!!」
彼の雄叫びが聞こえる。
だけどダメだもう終わりだ、そう思ったとき落雷のような音がして眩しい光と、吹き飛ばされそうなほど強い風が巻き起こり、一体の龍が地に落ちる。
動揺している彼を本部に待機させ、僕はギルドの者と共に戦った。
杖を持って魔法を放つ者、剣を使って火球を跳ね返す者。
何一つ欠けることなく、夜明けを迎えた頃にはほぼ全ての龍が討伐され、生き残りも飛び去った。
また、護ってしまったらしい。
日が昇り始めたころ、僕は狩人組織に帰ろうとした。
イヴァンは疲れたのかボーッとしていたが、挨拶だけでもしようと声をかける。
「イヴァンさん、僕は狩人組織の拠点へ帰ります。短い間でしたが、ありがとうございました。」
彼は「……ありがとうございました。」と、ぶっきらぼうな声で答えた。
僕は、彼やミトラに手を振りながら、本部を後にした。
――続く
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