第5話【テラ・ニーチェの視点そのいち】
【テラ・ニーチェの視点:鑑定士】
僕がギルドから依頼を受けてあの鑑定先の家にきた時は、正直疑っていた。
作家の息子が雷の魔法に目覚めたらしいが、それは七光りに傷がつきそうで必死にでっちあげようのしているのではないかと思いながら、その玄関をノックする。
ドアを開けたのは召使いでもなんでもない、長い黒髪をうなじでひとつに束ねている、金色の瞳をした性別がよく分からない人物だった。
「……エンキ氏のご子息はどちらに。」
まさか、この若者ではなかろう。
「あ、俺です。あなたは?」
"彼"は、高い声で答える。
正直、当時の僕は彼を見下していた。
「十七歳と聞いていましたが…予想以上に幼いですね。」
皮肉を効かせたような口調で言うと、侍女が案内をしに来た。
「……お邪魔しますね。」
彼は終始僕を睨んでいたがその程度の人物なのだろう、全く金持ちの子供は人が出来ていない。
応接間は質素なもので、ソファとテーブルでさえも庶民的なものだった。
出された紅茶の匂いを嗅いで毒が入っていないことがわかってから飲む。
一方、エンキ氏の息子…イヴァンは難しい顔をしていた。
自己紹介をしないのも気が引けるので、紅茶を飲みながら僕は話しかけた。
「僕の名前はテラ・ニーチェ、鑑定士です。」
相手からの返答がないので、カバンから鑑定のために必要なものを取り出しながら付け加えた。
「まあ普段は狩人組織で仕事しているんですけどね……」
まっさらな羊皮紙はこれからどのような鑑定結果を刻むのだろうか、見ものである。
「……イヴァンさんが薪割りをしていた時に雷が落ちたとお父様からお聞きしました。周囲が黒焦げになったらしいので、高度な鑑定魔法を使いましょう。」
鑑定魔法の中でも、詳細な結果を出すものは物理的接触が必要だ。
鑑定士のマニュアルでは、手を握ることによって「物理的接触」という必要条件を満たす。
僕が手を差し出すと、イヴァンはぽかんとした。
「物理的に接触していないと正確な結果が出ません、僕の手を軽く握ってください。」
僕がそう言うと、彼は答えた。
「あ、ああ。わかった。」
【テラ・ニーチェの視点:拮抗】
鑑定魔法を発動するために詠唱をすると、まず初めに手がビリビリとした。
弱い静電気のようなそんなものが、彼の手から伝わってくる。
魔法陣が展開されると、その静電気はいっそう強さを増して思わず手を離したくなるほどの痛みも感じるようになってきた。
数分後には鑑定が終わり、机の上に広げられた羊皮紙を見ると、そこには文字と図が描かれている。
「ふむ…」
羊皮紙を手に取って読んでみると、本来名前がつかないはずの能力に、あらかじめ名前がついていることもわかった。
これらは"ネームド"と呼ばれていて、かなり珍しいものだ。
「……三十年前、約百年は続く現象である"神産み"の兆しが見えた頃です。ですが…その百年間に生まれたとはいえこんな能力、いや羊皮紙に名前が書かれるほどの強いものが開花するのはおかしいです。」
僕の声はただ震えていただろうが、イヴァンはただそれを聞いていた。
そして「どういうことですか?」と、真剣な口調で答える。
僕は彼に羊皮紙を手渡した。
「読んでみてください。」
【テラ・ニーチェの視点:別れ】
彼も同様に、多少驚いた顔をして文字を目で追う。
「ここ十数年、鑑定を受けた人達にこのような名前のある能力を持つ者たちが多いんです。…それは記録でも明らかになっています。」
僕は付け加えて説明した、確かに"ネームド"を持つ者たちが鑑定によって続々と明らかになり、ギルドに入ることは珍しくない。
別室で控えていたイヴァンの両親を呼び、話をした。
「息子さんには普通に生きられないほど強い能力があります。ギルドはそういうもの達を保護する役目もあるのですが、そういった家族を持つ方には、約三十万五千ネクァ……つまり、慎ましく暮らせば一生使い切れないほどの金額が支払われます。」
そして僕とイヴァンはギルドへと向かうため、王都行きの馬車に乗った。
――続く
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