第4話【火の海、それは龍の仕業なのか?】
【龍災】
海の魔王が目覚め、龍が騒ぐ。
畏怖を忘れ驕り高ぶる人間たちに思い知らせるため、魔王は龍という名の下僕を遣い、復讐をする。
やがて、海の魔王たちは全てを飲み込むだろう。
俺は、大きな音で目を覚ました。
爆撃にも落雷にも似たその音は、街の至る所で聞こえる。
本部は無事なようだが、窓から見えるほかの建物が燃えている。
俺はドアを開けて、階段を駆け下りた。
カウンターのある一階には、避難してきた者たちでひしめき合って、ギチギチになっている。
「テラさん!ミトラさん!何があったんですか!?」
避難者をかき分け、テラとミトラのもとへ向かいながら俺は叫ぶ。
「イヴァンさん、やっと起きたましたか!」
テラは冷や汗を流しながら、眼鏡を指でおさえる。
「これは龍災ですね…!龍が起こす災害で、我々ギルドはこれを対処するのも仕事のうちなんです。」
「武器倉庫に行くので、ついてきてください。」
俺は、武器を使ったことなんて前世でも今世でも一切なかった。
「お…俺…武器使ったことが…」
「いいから早く!」
テラに喝を入れられ、俺はついていった。
【対抗】
「今回襲撃してきた連中は皆、空を飛んでいます。空を飛ぶ魔物や龍は雷の魔法に弱いんです。」
テラはそう言いながら、暗い武器倉庫をロウソクで照らしながら漁る。
「あったあった、これです。」
彼が手渡した武器は、古びた猟銃だった。
「訓練用の魔導銃ですが、霊雷であればそれなりの威力を出してくれるでしょう。……耐久性には目を瞑ってください。」
俺はテラから魔導銃を受け取り、武器倉庫を出た。
やはり本部の敷地の外は火の海で、龍たちが火球を放っている。
銃なんか使ったことない、戦ったこともない。
だけど俺なら、できる気がした。
…撃ち方が分からない!どうしたらいいんだ!!
その慌てが顔に出ていたのか、テラが叫ぶ。
「何をもたもたしているんですか!念じながら引き金を引くんです!!」
こちらに、一体が急降下してきている。
俺が狙いを定めると、髪の毛がまたバチバチと鳴り、銃身に電気がまとわりつく。
「オラァァァ!行っけえぇえええぇえええ!!!!」
龍と銃口の間は10メートルほど、大きな落雷の音と共に龍が地に落ちた。
「はぁっ……はぁっ……」
初めて魔導銃を撃った感覚に震えながら、動悸を鎮めようと座り込む。
物陰に隠れていたテラがこちらに駆け寄ってきた。
「とりあえず、猛威を奮っていた個体は討伐できたでしょう。あとは、こちらに任せてください。」
俺が手に持っていた魔導銃は銃身が破竹のように裂け、使い物にならなくなっていた。
「とりあえず、イヴァンさんは本部で待機していてください。」
【夜明け】
この風景を窓から見ていた。
杖を持って魔法を放つ者や剣を使って火球を跳ね返す者は、龍を着実に殲滅していく。
あいにく俺は魔導銃を壊してしまったので待機するように言われた。
そして夜が明ける頃には龍たちは討伐され、生き残った残党も逃げていった。
怪我人十数名で死者は出なかったが、復興はどうするのだろうか。
本部のロビーでボーッとしていると、テラが大荷物を持って階段をおりて来るのが見えた。
「イヴァンさん、僕は狩人組織の拠点へ帰ります。短い間でしたが、ありがとうございました。」
そういえば狩人組織で仕事をしているって、この前言ってたな。
「……ありがとうございました。」
俺はなんて言ったらいいか分からずに、ぶっきらぼうな声で答えてしまった。
「では、また会いましょう。」
テラは手を振りながら、本部を出た。
【一度目の幕間】
海の魔王は持たざる者に"贈り物"を定期的に与えることにした。
それらはやがて世界に染み付き、彼の意思に反して自動的に行われるようになった。
そして海の魔王は持たざる者が己を越えようとしていることに怒り狂う。
全てを火の海に包み、全てを海に還すために。
――続く
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