第3話【日暮れの王都にいるのは転婆娘と吸血鬼、そして俺】
【盛況】
王都には日暮れ時についたが、それでも人は沢山いた。
仕事を終えて自宅に急ぐであろう者、露店から商品を仕舞って次の場所へと急ぐ行商、はしゃぐ子供達…彼らは皆、この世界に生きる一人ひとりの人間なのだろう。
俺はテラについて行き、細い路地を進んだ。
少しばかり薄ら寒いその路地、その先へ向かうと、表通りよりも騒がしい景色が広がっていた。
「ここが、ギルドが管理している街です。」
「街の中に…街…?」
そう言うと、テラは「やはり、皆そう言いますか。」
「この街が王都の中にあるのは確かですが、広さは違います。魔法により、ある程度広げられているのです。」
「……行きましょう。」
テラは俺より五歩ほど先で立ち止まり、振り返った。
言った方がいいのだろうか、"神産み"の真相であろうことを、今回は大地震で死んだ一国の民が生まれ変わって起きたであろうことを。
「どうしたんですか?」
「あ…だいじょーぶ…です……」
ああテラの声がぐにゃりとして、前世で好きだった音楽が頭の中でループされている。
俺は怖い!偽物のような世界の偽物のようなお前たちが怖い!、そう思って叫び出しそうになったとき、肩に手の感触がした。
「本当に大丈夫なんですか?」
ふわり、朦朧しかけていた意識が徐々に平常に戻り、叫び出したいほどの恐怖を薄らいでいった。
【本部】
そんなこんなあって、本部へとついた。
「でかぁい………」
俺は間抜けそうに呟いた。
この建物は洋館のような形をしていて、しかもでかい。
背の低い俺だったら、見上げただけで首がもげそうだ。
洋館の内部は木や漆喰で作られており、荘厳な外見とは違った柔らかい雰囲気を出している。
「テラさんテラさん!」
カウンターに立っている女性が、こちらに手招きしている。
「ああミトラさんでしたか、戻りましたよ。」
「どうでした?鑑定結果!いや〜、気になっちゃいますね!」
テラは彼女に、羊皮紙を手渡した。
「ふむむ…へえ……ん!?」
読み進めていたミトラは、いきなり驚いた。
「あ…あの…この子……もしかして、"神産み"で生まれた子…?」
「そのようです、ちなみに彼の名前はイヴァン・エンキですよ。」
しばらく三人で色々なことを話していた、王都までの旅路の話や、ギルドのことなど。
その後テラとは別れ、ミトラについて上に続く階段を登った。
「すみません、喋りこんじゃって。」
俺は謝罪をする。
「いいんですいいんです!私、お喋りが大好きなので!」
【リーダー】
ミトラは最上階の廊下にあるドアの前に立ち止まり、コンコンとノックをする。
「オーディンさん!いますかー?!」
その言葉に、ドア越しのくぐもった声で「ああいるよ、どうぞ。」と聞こえた。
「失礼します…」「失礼します!」
ドアを開けて入ると、鴉の鳴き声が聞こえた。
右目に眼帯をした白髪赤眼の若い男が、逢魔ヶ刻の薄闇を窓から見つめている。
「キミがイヴァンくんか、テラからは手紙で聞いている。」
「私は970年前に生まれた。……前回の"神産み"が始まって間もないころだ。」
970年前の生まれ?だとしたらヨボヨボの爺さんを通り越して白骨化しているはずだ、そうやってポカーンとしているとオーディンは微笑んだ。
「私は吸血鬼なんだ、しかも日の下を歩ける。」
彼は俺たちに近づく。
「とりあえず、ゆっくりしていってくれ。」
オーディンはそう言いながら俺たちを部屋の外へ押し出した。
「なんか…変わった人ですね。」
俺の言葉にミトラは少しため息をついた。
「そうなんだけど、実力は確かよ。ギルドは変わり者ばっかりだからすぐに慣れないとね。」
【自室】
自室に案内すると言われ、例のカウンター前で少しばかり待たされ、俺が案内された部屋は、狭い部屋だった。
「ごめんね!他の人は別の宿舎にいるんだけど……本部に部屋が余ってたのに使わないのはもったいないって言われちゃって!」
俺は元々狭い部屋が好きだったから、このくらいの広さでも困らないことはない。
「いえ大丈夫です、ありがとうございます。」
「これ鍵、無くさないようにね。」
「おやすみ。明日は能力の検査みたいなのがあるから、しっかり休んでね。」
ミトラはそう言い、部屋を出ていった。
俺は机の上に鍵を置いて、ベッドに横になった。
「地面が黒焦げにならなきゃいいけど…」
そう呟き、眠りについた。
――続く
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