森での遭遇、いる筈のないものがいた

迷宮の街、遺跡の街とも言われるアルティア。

主に街の外壁の外に有り、地上に建造物がある構造物を遺跡と総称している。

だが、地下には勿論迷宮も抱えているものも多い。

基本的に遺跡も迷宮も規定以上の人数のパーティで挑む事になっている。

街の中に入り口がある迷宮は、大迷宮ネルガルという。

門と同じく東西南北に入り口が有り、門と同じく方向で難易度も異なる。

東が一番弱く、北が一番強い。


そんな話を聞き終わる頃には、もうご飯も食べ終わっていて。

私達は森に向かう事になった。


東門の衛兵達と何時もどおり挨拶を交わして、地図の通りに道を進んでいく。

ついでにアルトに質問してみた。


「森で迷わない様にするコツってあります?」

「慣れと勘」


参考にならねぇ。


私は思わずジト目で見てしまった。

仕方なく、専門家でなさそうなノーツを見る。


「ノーツさんは?」

「大体の方向を掴む事じゃないか?例えば日中なら太陽の位置とか」

「流石です。そういう事が聞きたかったんです。ノーツさんは教えるの上手ですね」


有益な情報に私が喜んで褒めると、ノーツが少しドヤ顔をした。

逆にアルトは何だか不機嫌そう。

「そんなに嫌ならノーツさんちの子になっちゃいなさい!」とか言い出しそう。

まあ、慣れと勘と言われればそれも正しいかもなんだけど、初心者だもんね。

一応私も、森の中を注意深く観察しながら二人と共に歩いていく。

街からの距離とかも含めて考えつつ、目当ての薬草が生えていないか、食べれる野草がないかも見る。


「あっ、これ…」

「ん?あったか?」

「いえ、肉の臭み消しになる野草です。付けあわせにも美味しいんですって」


私の返事を聞いて、アルトはめんどくさそうな顔をした。

ノーツは「ほう…」と頷いている。


「試しに摘んで帰りますね」


だって、ちょっと食べてみたいじゃない?

プチプチと葉っぱをもぎって、薬草袋とは違う小袋に詰め込んだ。


「行くぞ」


アルトに急かす様に言われて、私とノーツも歩き出す。

暫く進むと、少し開けた場所に出て、目当ての薬草の群生地が姿を現した。


「あ、ここですね」


私はしゃがんで、依頼書と薬草を見比べる。

十分以上は歩いたので、間違いなく森の中だ。

一人で分け入るには勇気がいる場所である。

依頼書どおりに、私は根っこを残して茎の部分からぷちぷちともぎった。

根はどうしても必要と言う訳ではないので、次回以降の為に残しておくんですって。

でも、家で育てらんないのかな。

薬草園作った方がはやない?

まあ、後で聞いてみよう。

そして、ちょこっと育てる用に、根っこ付も連れて帰ろう。


もぎもぎ。

もぎもぎ。


二人は特に何をするでもなく、のんびりと辺りを見回している。

一応、警戒はしてくれている様子。

手伝ってくれてもいいんだけど、私の依頼で私の仕事だしね。

何で質がいいのかわからないけど、私の何かが自然に優しいのかもしれないし。


もぎもぎ。

もぎもぎ。


必死でもぎっていたら、見覚えのある草がいた。


「こっ……これは、毒消し草かな?似てるね?」


思わず草に話しかけたが、勿論返事は無い。

とりあえず、別口で根っこ付のまま関係のない袋に入れる。


依頼の採取は終わったので、私は立ち上がった。


「お二人とも強いし、折角だからもう少し奥に行って見てもいいですか?」

「まあ、俺はかまわんが」


私の問いかけに、ノーツは同意するが、アルトは肩を竦めただけで、さっさと森の奥へと分け入って行く。

強い人だし熟練だから許されるけど、弱い奴がやったら助走をつけて殴りたくなる仕草ではある。

下生えを踏みしめながら、木の根に足を取られないように気をつけて進む。

またも十分程度進んだ所で、二人が突然足を止める。

何があったんだろう?

私も思わず、足を止めて身構えた。


「様子が少し変だな」

「ああ」


二人が短い言葉を交わす。

え?

ガチのやつじゃん。

何かこの先にいるのかな。


ノーツもアルトも、武器に手を添えている。


どぷん。


何かが水に飛び込んだような、妙な音がした。

ここには水は無い。

川も近くにないし、水音だってしない。


どん、どぷん、ぱきぱき。


何かにぶつかる音、鈍い水の音、細枝を踏み砕くような音。


そして、それは目の前に現れた。

木を飲み込むかのように身体をめりこませた、巨大な。


「チィ、キングスライムか」

「参ったな、これは。こんな所に出る奴じゃないだろう」


ふむ。

普段は何処にいるんだろう。


でも、逃げれば間に合うんじゃないのかな?

私のせいか?


「逃げた方がいいですか?」

「逃げるには足場が悪いし、森の外に出すわけにもいかん」

「お前は隠れてろ」


確かに足手まといだし、どんな攻撃をしてくるのかも分からないし。

私は木の近くから、こっそり二人を見守った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る