突然のランクアップ

びにょん、とスライムが身体の一部を伸ばして叩きつけるように振り下ろす。

アルトはひらりと避け、ノーツは避けながらその身体を切りつけた。


びちゃり、と音を立てて、伸ばした部分が下草に浸みるように広がる。

身体から離れると、形は崩れるのか。

でも身体が大きい分、コアには届かなさそう。

火はどうかな、と思うけど、あの体積だと上から圧し掛かったらすぐに松明如きでは消えてしまうだろう。

アルトは多分、コアを狙っている。

ノーツは多分、攻撃が来るたびに切り払って体積を減らしている。


てか、スライムって何処に目があるのか。

何で認識してるんだろう。

音?空気かな?

漫画で見る小さいスライムは可愛らしい顔が付いていたりするけれど、目の前のはぶよぶよした大きな粘液に、丸いコアが真ん中でたゆたってるだけ。

魔法でも打ってみるか。


ばしん、と大きい触手のような物を伸ばして、二人が回避した瞬間を狙って。


火球ファイア・ボール、両手を突き出すように唱えて、火球は見事にスライムに命中した。

命中は、した。

したけど、ダメージは微々たるものだろう。

表面がじゅわっと溶けただけだ。


「「えっ」」


二人の驚く声がする。


「お前魔法使いだったのかよ!」


アルトの言葉に、私は木の影から顔を出して答える。


「学校で習っただけで、大した魔法は使えないです。魔法使いの枠に入れたら怒られますよ」

「いや、それでも才能がないと出来ないからな」


切り払いながら、ノーツは苦笑を浮かべていた。

でも、残念ながら役に立ってはいない。


うーん。

でも、珍しいのは光魔法なんだよね?

だったら、魔物に効果的なのも光魔法なのかもしれない。

ちょっと試してみるか。

元々試そうかなって思ってた奴だし。

辺りを照らせたらいいなって、灯りというか光?

さっきみたいに、攻撃可能な球にしたら、少しは効果あるかもしれない。


「ちょっと試したい事あるんで、回避に集中して貰えますか?さっきみたいに無駄打ちになるかもですけど」

「おお、やれやれ」


アルトは楽しそうに言い、ノーツは無言で頷いた。


私は集中する。

光球ライトボール


んー……?

さっきはバシュッて感じで飛んでったのに、照らそうという意識が強くなっちゃったのかな。

へろへろ……と低速でキングスライムに近づいていく。

スライムの頭にもハテナが沢山浮かんでそう。

完全に無駄打ちだし、二人も何か残念そうな顔をしている。

でも一番残念に思っているのはこの私だ!


へろへろを、スライムは避けようともしなかった。

そりゃそうだ。

だって何の力もなさそうだもん。


どぱん!


でも、あろうことか、光の球はスライムに接触した途端爆発した。

大量の粘液が辺りに飛び散って、アルトはその瞬間を逃さずに、コアをナイフで撃ち抜いた。

途端に、ぶるりと巨体が震えて、でろりと辺りに粘液が広がっていく。


「ふあー!アルトさん凄いですね!流石です」


パチパチと拍手をすると、アルトが呆れたように言った。


「いや、凄いのお前だろ。さっきの、あの、変なのは何だ」


変なの。

変なのとは失礼な。

私もそう思うけど。

でも、何と聞かれても私は分からない。


「よく分かりません。何か、新魔法?試し打ちですね」

「すごい威力だったぞ。あそこまで一気に体積を削るには高位の位階の魔法でもないと無理だ」


そうですよね。

多分、普通なら。

光属性だからなのかなあ?

秘匿してるから、言うのはやめておく。


「あ、でも二人ともべっちゃべちゃですね。戻りましょうか?」

「そうだな」

コアと魔石の売り上げはお前にやるよ」


スライムの近くで何かを拾っていたアルトが言う。

私は両手を振った。


「いやいや、貰えませんて。どうしてもっていうなら三等分です」

「しょーがねーな」


私達は元来た道を引き返して、無事街へと辿り着いた。

ギルドに着くと、依頼の薬草を渡す私の横で、二人が受付嬢と話をしている。

どうやら、あの場所にいてはいけないモンスターだった事を伝えているらしい。


「今回も良い感じですね。過剰達成ですよ」

「わーい」


私が無邪気に喜んでいると、隣の受付嬢がこっそりと、私の担当さんに耳打ちする。


何だろう?

二人の悪口かな?

スライムでべちゃべちゃだもんね。

スライム臭えんだよ!とか言われてたら可哀想。


担当のエミリーが、驚いた様にエッ!と言っている。

逆に今度はエミリーが、受付嬢にこっそり内緒話。

何だか可愛い。


二人でスライム塗れなんて、何してたのかしら?卑猥ね!

とか言われてたらどうしよう。

私には関係ないけど。

まあ、キングスライム倒しただけなんですけどね。


エミリーが、仕切りなおすようにコホン、と咳払い。

何か書類みたいなのを書いた後で、判子をポンと押してから、私にギルドカードを返してくれた。


おや?

冒険者ランクがあがっている…だと……?


「えぇと…これは……」

「過剰達成と、依頼の遂行率もそうなんですけど…三人だけでキングスライム倒したので、その分でランクあがっちゃいました。一応、魔法の件は秘匿って事で、ミルリにもあの二人に伝えて貰ってます」


こっそりとエミリーに言われた。

ミルリとは隣の受付嬢だろう。

てぇ、事は、あの二人はきちんと、私が魔法を使った話も報告したのね。

あの、妙な魔法を。

てか、あれってスライム以外にも効果あるのかな?

あるとしても使い道……例えば一角兎アルミラージに使って成功した日には、爆散である。

お肉食べれない。

かと言って、あんなに低速じゃ素早い敵とか、小さな敵には当たらないだろう。

使いどころが難しいな。


「ご配慮ありがとうございます。二人は誤解してますけど、ただのまぐれで使い道の無い魔法なので、役にはあんまり立ってなかったですが……」


まあ、早々こんな事でレベルも上がらないだろう。

違うからランク元に戻して!って言うのも何だし、その分真面目に頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る