リサさんが優勝

ズンズンとノーツの元へ歩いて行ったアルトの背を見守りつつ、私は素振りを再開した。

馬ってさ、筋肉すごいよね。

私が後ろ足で蹴られたら、昨日の朝以上に吹っ飛びそう。

そんな事を考えつつ、ふとアルトとノーツを見てみると、何か険悪な雰囲気。

ちょっと目を離した隙に…!


うん?

何で言い合いしてるの?

え?何で武器構えた。

どうしてそこまで急に険悪になれるの?


ノーツとアルトがお互いに武器を構えて対峙している場所へ、私は慌てて駆け寄った。

外野の声が聞こえる。


「勝った方がミアちゃんとデートするらしい」


何ですと!?

そんなので、怪我をしそうな事をしようとするって、男子って馬鹿なの?

あ、馬鹿だわ。

私は卒業パーティ前の、あの時間を頭に思い浮かべた。


「ちょっと、止めて下さい。ただの依頼に付き添いするだけなのに、喧嘩は良くないですよ」

「約束したのは俺だ」


ああ、はいはいそうですね。


「二人きりじゃ危険だ」


ええ?どこまで森の奥深くに行くんですかね?


「あのですね、森をちょこっと入った所なので、危険はほぼないです」

「駄目だ」

「何でですか、大丈夫ですよ、多分」


言い切れはしないけど、連日森の近くにいたけれど、粘液生物と兎しか見ていない。


「昨日コイツに蹴られただろ」

「ぐわあ!」


思いもしない一撃に、ノーツが頭を抱えた。

事実は事実なので、私は肯定する。


「まあ、確かに?」

「………すまん」


いつまで引きずる心算だろう。

まあ、何か言う事聞かせたいときに便利だなとは思っていたけれど。


「でも、それ込みでお詫びで、保護者として引率してもらうので」

「じゃあ、俺も一緒に行っても構わないだろ」

「まあ、構いませんけど、つまらないですよ?」


実に悔しそうなノーツと、何故か嘲笑するようなアルトの笑み。

え?どういう関係?


「……仕方ない。ミアがそう言うなら」

「はあ……まあ、仲良くしてくださいね」


森の中で喧嘩をされても困るので、一応釘は刺しておく。

まあ、仲良くされ過ぎても困りはするけども。

その場合は仲良く獣のお腹にINすればいいのである。


訓練が終わると、私の定宿の黄金の野うさぎ亭へと移動した。

今日も今日とて賄いが食べれるのだ。


「私は賄いを頂けるので、二人は別のお店で食べてきてもいいんですよ?」


「何でコイツと!」


仲良く二人でハモるけど、私は眉を下げた。


「いや別に二人で一緒になんて言ってませんけど」


私は腐ってないから喜びませんよ?

二人はフン、とお互いそっぽを向く。

子供か。


「じゃあ、まあ、いいなら、宿屋でいいですけど……」


若干疲れながら、私は宿屋の戸を開けた。


「あら、今日はお客様連れてきてくれたのね?」


リサさんがいつもの優しい笑顔で迎える。

は~癒されるわ。

私の疲れは一瞬で吹っ飛んだ。

出迎えた笑顔のリサさんに、ピシッとノーツが会釈をする。


「ノーツです。ミアがお世話になってます」


お前は父親か。


「アルトです。弟子がお世話になってます」


師匠ですね。

それは合ってます。


「リサです。ミアちゃんのお嫁さんです」


可愛らしくふふっと笑う姿に、ノーツとアルトはぽかんと口を開けた。

リサさんの方が一枚上手ですね。

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