私、馬に蹴られたくないです

明くる日も、私はギルドへと赴く。

挨拶を交わして、掲示板を眺める。

色んな依頼があるなぁ。

討伐依頼や、材料入手が主な種類だけど、私にはまだ早い。

今日も一応普通の薬草依頼も掲示板から剥がして持っていこう。

訓練場に向かうと、今日はアルトも先に来ていた。


「あ、今日は早いんですね。お早うございます」

「おう。お前がめんどくせーから早起きしたわ」


いい心がけじゃ。

めんどくせーは余計だけど。

ツンデレだと思えば苦しゅうない。


「ふふん。分かればいいんですよ、分かれば」

「いいから、ほら、素振りしろ」

「はいはい」


私は昨日教わった一連の動きを繰り返す。

アルトは暫く様子を見てから、次はこう、と動きを追加した。


「なあ、何かノーツがめちゃくちゃこっち見てねーか?」

「アルトさんのお尻に見とれてるのかな?」


どうでもいいのでそう返すと、何とも言えない顔をして、アルトはお尻に手をやった。

私は教えられた動きを繰り返しながら、アルトの姿を眺める。

長めの前髪で、片目に髪の毛がかかるくらい。

緑の目に、白い肌で鼻梁もスッと通っている。

盗賊のような、仄暗い雰囲気があるからか、美形でも影がある感じ。

一般女子受けは悪そう。

腐女子人気は高そう。


「アルトさんて細いですよね。やっぱり職業柄ですか?」

「まあな。罠の発動避けるのも、避けるのも、身軽な方がいいからな」

「じゃあ、力ではノーツさんに敵わなさそうですねえ」


まあ実際に、見た目からして敵わなそうだ。

腕とか腿とか二倍くらいありそうだもんな。

何食べたらあんな、良質なお肉が出来るのかしら。


「やめろ」

「はい」


私は動きを止める。


「違う。そっちじゃねえ。変な想像するの止めろ」

「え?何も想像してないですけど……しいて言うなら、何を食べたらあんなに筋肉付くのかなって考えてました」


アルトは益々苦み走った顔になる。

あら?


「もしかして、想像しちゃってたんですか?男に組み敷かれるみたいな?それはすみません。貰い事故だと思って諦めてください。……で、どこまでいきました?キスはしました?」


「うるせえ!続けろ」


え?どっち?

私は薄々分かっていて続けた。


「はい。服は脱がされました?」

「そっちじゃねえ、素振りだ!」


めっちゃ怒ってるわ。

ノーツもその声を聞いてか、少し目を丸くしてこっちを見ていた。

私が手を振ると、ノーツも手を上げて返す。


「ノーツさんて、犬みたいですよね」


素振りに戻りながら言うと、ちらりとアルトもノーツを見る。


「確かに。忠犬って感じはするな」

「冒険者より、何処かに仕える騎士って雰囲気しますしね」

「元々、騎士家の出身だって言ってたからな」


そうか。

きっと彼にも色々あったんだろうね。

私も元々平民の、元男爵令嬢だもんね、そういえば。

それに、出身を知ってるなら、ある程度仲は良いのか。


「ご両親に挨拶まで済ませちゃいました?」

「いい加減そこから離れろ」


呆れたように言われて、思わず笑う。

そして、本当の事を教えた。


「今日はこの後ノーツさんとデートするんです。だから気にしてるんだと思いますよ」

「は?お前ら昨日会ったばかりで、もうそういう関係なのか?」


驚いたように言うアルトに、私は首を小さく傾げた。

素振りを続けながら言う。


「そういうって、別に。食事をして森に行くだけですよ」

「食事をして森……何だか物騒だな」

「やだなあ、全然物騒じゃないですよ」


だって、そんなに奥深くじゃないし。

薬草摘むだけですもんね。


「……俺も付いていってやろうか?」


意外な言葉を聞いて、私は動きを止めた。

もしかして心配してくれてるのかな?


「え、心配してくれるのは有り難いですけど、別に楽しいことないと思いますよ?」


薬草採取なんて、やってる方は楽しくても、見てる方はねぇ。

暇でしょうし。


「危険だろ」

「まあ、危険がないとは言い切れませんけど、ノーツさんとアルトさんが良ければ別にいいですよ」

「じゃあ、ノーツに言ってくる」


え?

もしかして、私とノーツさんに嫉妬して?

二人きりにさせたくないのかな?

恋路を邪魔したら、馬に蹴られちゃうじゃん。

私が。

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