美人と可愛いと美味しい料理だよ

宿屋に帰ると、ちょうど夕飯時で店は混み合っていた。

リサさんとリヤちゃんに、店の従業員が幾人か、忙しそうに働いている。

美味しい料理を出す店で、しかも美人の店主に可愛い娘、従業員も料理人以外は女性だから、そりゃ混むわ。

毎日通いつめてる人もいるだろう。


「あっ、ミア姉、お湯はちょっと待っててね」


律儀にリヤちゃんが声をかけてくれる。

でも私は首を横に振った。


「今日は大丈夫。えっと一緒にご飯食べれそうだったら、声かけてくれるかな?私ちょっと勉強があるから」

「分かった!」


明るい返事と笑顔を貰って、私は軽い足取りで部屋へ向かった。

部屋に入ると、背負い鞄から本を取り出して読み始めた。

薬草大全と食べられる野草の本だ。


やっぱり、サバイバルになったら、食べられる物かどうかの見極めは必須よな。

知っていると知らないとじゃ雲泥の差。

それに本当にたまたま、高価な薬草や貴重な草があるかもしれないし。

あー、こういう時お菓子食べたい。

寝転がって本読みながら、パリパリするやつ。

ポテチ。

これ料理チート出来るやつじゃん?

まあそれはさておき、野草を覚えよう。


どの位経ったのか、部屋をノックする音が聞こえて、私はベッドから降りて扉を開ける。


「お客さん減ってきたから、ご飯食べましょうって」

「はーい。じゃあ、行こっか」


私はリヤちゃんの頭を撫でて、鍵を閉めてから一緒に階段を下りていく。

台所に通じる扉から中に入ると、リサさんがにこにことテーブルに着いていた。


「さあ、食べましょう」

「うわあ、美味しそう!頂きます」

「いただきまーす」


三人でもぐもぐと肉を頬張る。

甘辛のタレでパリッと焼かれた皮が香ばしい。

中のお肉はジューシィだ。

ゼリー寄せも一緒に食べてみると、果実の甘みと酸味、血の塩気が丁度いい。

お肉に合う!


「すっごい美味しい~~」

「私も久しぶりに食べたわ~!」

「美味しいねぇ」


私が賞賛すると、リサさんが同意して、隣のリヤちゃんも頷いた。

でも、東門を出たらすぐ、アレがいるのに何で出回ってないんだろう?


一角兎アルミラージ捕る人いないんですか?」

「そうねえ、最近少ないかもしれないわね」


首を傾げつつ、リサさんはおっとりと言う。

私はモグモグしながら、町へ来たときの事を思い出していた。


「街に来るときに冒険者のパーティと一緒だったんですけど、東門だぞって何度も念を押されたのに、そういえば私以外見たことないですねぇ……」

「あら、そうなのね、やっぱり」


やっぱりって何かあるのだろうか?

え?

古い情報?

何か騙されてる?


首を傾げる私に、リサさんが眉を下げた。


「最近はね、新人の人でもパーティを組んで迷宮に潜るのが多いみたいなの。外にある遺跡とかじゃなくて、街から行ける地下迷宮ね。ギルドでも推奨はしていない筈なんだけど……」


それは初耳だった。

普通に薬草採取が楽しかったのもあるけど。

迷宮探索だけじゃ、冒険者ランクは上がらないと最初に説明を受けたし。


「一攫千金狙いですかね?冒険者ランク上がらないって説明は受けましたけど……いきなり迷宮って死んだりしないんですか?」

「するわよねぇ。だから、認可冒険者の方が時々低層も巡回してるみたいなんだけど。あとは、中堅冒険者のパーティに入れてもらって、ある程度育てて貰うっていうのもあるみたいよ?そういう氏族クランもあるんですって」


パワーレベリングや……!

上級者が初心者を連れまわして、レベルあげるやつ。

ゲームによっては、パーティ内のレベル差があると、経験点入らないやつ。

うーん。

でもこの仕様だと、それって。


「実力付かなさそうですね!」


笑顔で言うと、リサさんはふふっと笑った。


「でも、気持ちがはやるのも分かるわ。ミアちゃんが特別なのよ」

「そうかなぁ。地道にこつこつやるのが、一番の近道だと思いますけどね」


小市民なので。

自分、平凡で凡庸なもので。


「ミアちゃんのそういうところ、私大好きよ。応援しているわ」

「ん゛っっ!?」


えっ?

プロポーズ?

私今、プロポーズされた?

トゥンク、と胸が高鳴った。


「私、リサさんならお嫁さんにしたいです!」

「あらあ、嬉しいわ」


えー!両思いじゃないですかやだー!

だけど、リヤちゃんはむくっとしている。

どうやらご不満らしい。


「だめ!ママはリヤのママだから!」

「かーわーいーいー!」


リヤちゃんは怒ったようにキリッと眉をあげて、横からリサさんに抱きついた。

不貞腐れた顔も可愛いって、ヤバいな!

思わず私はリヤちゃんの頭を撫で撫でする。


「だから、ミア姉のお嫁さんにはリヤがなってあげる」

「えー何それ、凄く可愛い!じゃあ立派な冒険者になるね!」

「うん!リヤも応援してる!」


こんな素敵な二人に応援されたら、やる気出ちゃうよね。

私は食事を終えて部屋に帰ると、今朝練習した短剣ダガーの素振り練習を始めた。

適度に運動したら、身を清めて野草の本を読みふける。

食事に運動、読書ときたらもう、ね。


スヤスヤ。

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