初めての指名依頼
ハッとしてリサさんは恥ずかしそうに頬を両手で挟んで顔を赤らめた。
「あら嫌だ、私ったら。あの…お料理するから一緒に食べてもいいかしら?」
「勿論ですよ!折角だからお料理見たいです。血抜きってどれ位かかります?」
「ええと、そうねぇ、今やっちゃうわ。ちょうど、頸は切れてるし、尻尾を取って、垂れなくなるまでこうしておきましょう」
手早くリサさんが言いながら、尻尾を切り落として、兎を逆さにして吊るし、下には血を受ける皿を置く。
ポタポタと血が溜まっていくのだが、私は疑問に思って問いかけた。
「血って何かに使うんですか?」
「ええ、料理に使うわよ。照り焼きにするから、お肉に添えるゼリーを作るわ」
言いながらもリサさんは、仕込みの為か、野菜を刻んでいく。
「じゃあ、持ってくるときに皮袋に血が溜まってたんですけど、それも使いますか?」
「あら、ええ。じゃあ器に空けてね」
「はい」
じゃーっと血を流し入れて、私は皮袋を裏に返して、
「水場、借りますね」
「ええ、どうぞ」
流水で皮袋と
乾かし終わる頃には、
「血が止まりましたよ」
「じゃあ、捌くわね」
「教えてもらってもいいですか?」
「ええ、じゃあ、見ててね。まずは皮を剥いでいくの」
時々説明を加えながら、リサさんは手早く皮を剥いでいく。
すごい。
器用に皮を剥かれた肌色のお肉は、もうどこからどう見ても食材だ。
白い皮のモフモフになった方が動物に見える。
「こっちの皮とかってどうするんです?」
「綺麗な毛並みだから毛皮商に売れるわね。角もギルドで売れるはずよ」
言いながらもリサさんはてきぱき解体していく。
どこに骨があるのか、熟知しているから出来る職人技だ。
「勉強になりました。じゃあ、角は私が貰うので、リサさんは毛皮の方どうぞ」
「あらいいの?じゃあ、リヤにこれで何かつくってあげようかしら」
にこにことリサさんは微笑みながら言う。
いいお母さんだ……!
心の中で私はその尊さに涙を流した。
「じゃあ、もう一回薬草摘み行って来ます」
「気をつけてねミアちゃん」
「はあい」
私は走って元の場所へと急いだ。
薬草の群生地に座り込んで、また引っこ抜く。
地味な作業に、にへにへしながら私は楽しく薬草を摘んでいたが、今日もそろそろ終わりのようだ。
街から鐘の音が聞こえる。
夜間は門を閉ざす事もあるので、きちんと帰らないと大変な事になるのだ。
うーん。
やっぱり
丈夫なやつ。
パンパンになった薬草袋を持って、私は街へと凱旋した。
「ミアちゃん、精が出るねぇ」
「ミアちゃん、お腹蹴られたんだって?大丈夫か?」
何で知ってるんだ?
連絡網でも出来てるんか?
「全然大丈夫ですよー。今日も薬草いっぱい採れました!」
にっこり笑うと、衛兵の皆さんもにこにこする。
何か、あったかい家庭を持ってそうな人達だなー。
だって、衛兵って手堅い仕事だもんね。
危険が無いとは言わないけど、冒険者よりは命の危険少ないだろうし。
漫画とかで嫌な衛兵とかいるけどさ、偉そうな奴とか。
そういうのは活気がある街ではきっと排除されるんだろうなって思う。
冒険者とか商人とか、門を通る人と問題起こしそうだもんね。
私はたっぷり薬草が詰まった袋を持って、ギルドに持ち込んだ。
今日も多重達成です。やったね!
「あら、ミアちゃん。丁度良かった。貴方に指名依頼が来てるのよ」
「へ?何故に?」
思わず変な返事をしてしまうほど、驚いた。
だってまだ、冒険者生活二日目よ。
新人どころか、何ていうか……生まれたてじゃない?
くすっと笑って受付嬢がぴらりと依頼書を見せてくれた。
「あなたの薬草の質が良いからですって。でもこれ、ちょっと森の中に入った所だから、誰か一緒に行ってもらった方がいいわね」
「ふむ。その辺りって他にどんな植物がありますか?」
「そうねぇ……」
受付嬢は思案して、後ろの事務スペースに消え、小さな手帳を持ってきた。
「ええと、この辺りかしら?地図は依頼書にも付いてるけど、植物の分布図はこんな感じみたいよ」
「ほう……」
これは植物学者の血が騒ぐわい。
別に学者でも何でもないけど。
野草図鑑全部読んだら、何か特典付きそう。
今日帰ったら読んでみよう。
「ミア、今日の夕飯、どうだ?」
後ろから声をかけられて、振り向くとノーツが立っていた。
鎧を着ていないが、服が苦しそう。
服が苦しいって言ってる。
その位筋肉がボリューミーだ。
「今日はごめんなさい。リサさんと約束があって、明日なら行けます」
「………。………そうか!」
断った途端ずううん、と沈んで、明日行けると聞いたらぱっと顔を上げる。
ああ、何かこの人、犬みたい。
散歩に行きたい犬。
リード咥えてきそう。
「あ、それと、明日この依頼受けてみようと思うんですけれど、森にちょっと付き合って貰えませんか?」
「どれだ?見せてくれ……ああ、この辺りなら問題ない。付き合おう」
依頼書に視線を走らせて、ノーツはしっかりと頷いた。
受付嬢さんもにこにこして、「安心ね」と太鼓判を押す。
「じゃあ、明日も訓練に来るので、お昼を食べてから森に行きましょう」
「ああ、楽しみにしている」
ん?
楽しみ?
森が好きなのかな?
それとも夕飯が待ちきれない食いしん坊か?
とりあえず、にっこり相槌を打って、私は宿屋へ急いだ。
猛然と街を駆け抜ける私を、驚いた様に見る人がいても気にはしない。
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