ノーツの剣術指南
翌朝も元気良く私は目覚めた。
うーん、清々しい。
大きく伸びをして、昨日放置した足湯だった水が入った桶をトイレにいきつつ、流す。
装備を整えてから窓を開けると、まだひんやりした朝の空気が頬を撫でた。
遠くに鳥が飛んでいるのも見えて、朝焼けの雲の色も美しい。
ああー憧れの異世界!
変な乙女ゲームに囚われなくて良かったわー。
ほんとギリだった。
私は戸締りを終えると階段を下る。
そこにはもう朝御飯のいい匂いが漂っていた。
「おはよう、ミアちゃん」
「おはようございます、リサさん」
気づいたリサさんに声をかけられ、笑顔で挨拶を返す。
「すぐ用意出来るから待っててね。あ、お弁当は少し時間かかるけど…」
「あ、一度お昼に顔出しますよ。今日はギルドで授業なので」
そう言うと、リサさんはおっとりと柔らかい微笑を見せる。
お皿に料理を盛りつけながら、うんうんと頷いた。
「だったら、ランチをご馳走するわね。賄いになってしまうけれど、温かい料理の方がいいでしょう?」
「わー、嬉しいです。それで良ければお願いします」
美人で優しいって、もうそれだけでチートじゃない?
しかも胸だってたゆんたゆん。
愛と夢と希望が詰まってますよ。
そういえば、旦那さんいるのかな?
いなかったら立候補したいくらいだよ。
「はい、どうぞ」
「おいしそう!いただきます!」
お皿の上には焼きたてのパンと、サラダにベーコンエッグ。
それにカップに入ったスープが添えられて、めちゃくちゃモーニングセット。
美味しい。
スープは野菜と玉蜀黍みたいな穀物が入ったスープで、優しい甘みがする。
身体にしみわたる。
お腹も一杯になった私は食器を下げて、ギルドへ向かう。
朝の町には冒険者や、店で働く人々が忙しなく歩いている。
ギルドも人が溢れて活気づいていた。
まずは、冒険者が集まる掲示板に行き、薬草採取の依頼だけもぎとって受付に向かう。
「おはようございます。授業はもう受けられますか?」
「まだ講師をしてるアルトが来ていないの。修練場で待っててくれる?」
「はあい」
口頭で案内をされて、扉の先の廊下を進んで外へと出る。
建物でぐるりと囲まれた広い中庭のようなところに、色々な武器と木人形が並べられていた。
剣の素振りをしている少年もいる。
あ、懐かしい。
そういえば、私剣道やってたっけ。
適当な重さの剣を手に取ると、私も素振りを始めた。
下に振ったときに手を絞る事で、勢いを殺す。
剣道はあくまで、剣道であって実践向きじゃないのかな?
稽古のとき下まで力任せに振り抜く馬鹿も居たけど、そういうのって偶に受ける剣を下げると床打つんだよね。
そう考えると大きな隙になって、首や頭がガラ空きになるから、やっぱり大事なのかも?
つらつらと考えていると、何だか集まった人達に注目されていた。
「へ?」
私は後や横をきょろきょろ見るが、私しか居ない。
「何か、変でした?」
「いや、綺麗な剣筋だと思ってな。何処かで習っていたのか?」
全身金属鎧の騎士みたいな青年が真面目な顔で言う。
私はこっくり頷いた。
遠い世界の話だし、もうぼんやりとしか覚えていないけど。
「ふむ、じゃあ打ち合いをしてみるか?」
「えっ……あ、はい。じゃあお願いします」
よくわからんけども、機会があったら試したほうがいいだろう。
私は剣を構えた。
てゆーか、そっちは全身金属鎧ってずるくない?
私部分的に皮鎧で、あと布なんですけど??
「大丈夫だ。力いっぱい打ったりはせんよ」
いやもう。
身体のでかい男が全身金属鎧で固めて、剣を構えているんですよ?
少しでも力いれたら、折れちゃいそうじゃん。
見ただけでお腹一杯だよ。
「来ないのなら、こちらから行く」
ひえっ。
乙女、乙女に何すんの!
片手で振られた剣を、両手で持っている剣で弾く。
力いっぱいじゃないのは本当だろうけど、重い。
フッと男が笑った気がした。
あー余裕ぶっこいてる。
そりゃそうですよね。
腹立つわー。
もう一撃、同じ攻撃が来た。
私は同じく弾き、今度は後ろに引かずに踏み込んで、弾いた反動で手元に剣を引き付けて首筋を狙う。
その瞬間、お腹に衝撃が走った。
「かはっ」
同時に、私は後ろに吹っ飛んだ。
呼吸も、出来なくなって、蹴られたのだと分かった。
やばい。
朝食が出ちゃう。
だめだめ、勿体無い。
私はお腹を押さえて、ぐっと堪えた。
瞼の裏に、リサさんの優しい微笑が浮かぶ。
リサさん……。
貴方の手料理は吐きません……!
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