第2話喧嘩自慢の社会不適合者
「よろしくお願いします。有川です。今回の面接を担当させていただきます」
女性面接官が入室してきた。
志望者が大勢座っている向かいに座っている。
名前は有川さんというらしい。
有川さんの両隣には中年の男性が座っている。
重役ということだろうか。
若いのに凄いな。
俺と大して年も変わらなそうなのに。
俺は自己嫌悪に陥ったが、ここで落ち込んでいる場合ではない。
無能と呼ばれないためにも俺は合格すると決めたんだ。
集団面接が行われている。
志望者は各々の特技を披露している。
大学も有名なところばかりだ。
俺みたいなFランとは大違いだ。
「貴方は諦めた方が良さそうですね。個性がない。貴方は……」
俺が雲の上だと思っている志望者が滅茶苦茶ダメだしされている。
心が折れそうになるが、まだ俺自身がダメだしされたわけではない。
俺には他人に自慢できるような特技もなければ、学歴もない。
今出せる精一杯を出し切るしかない。
「久能譲さんですね?」
「はい」
来た。俺の番だ。
恐ろしいが、チャンスでもある。
「筆記試験唯一の満点合格者でした。今回の平均点は67点でした。大変優秀なのですね。ですが、それだけでは合格ではありません。貴方の人となりを知るためにも面接させていただきます」
満点だったのかよ……周りがざわつき始めている。
本当はコミュ症で社会不適合者なのに、優秀認定されてしまった。
本来なら喜ぶべきことなのに、ペースが乱されそうだ。
まあ、元からペースなんて乱れてるんだけど。
ここは平静を装わないと。
「かしこまりました」
「筆記試験満点おめでとうございます。どのような勉強をされたのですか?」
ここは本当のことを言わないほうがいいだろう。
ネット知識なんて。
「ありがとうございます。ダンジョンの歴史を本で学びました。複数回読み込み疑問点を自身で解消しました」
「なるほど。では、特技を教えてください」
正解だったのだろうか。
そして、特技だ。
普通の面接だったら不適当だけど、ダンジョン関係の仕事に就くにあたって考えていた特技がある。
「喧嘩です。殴り合いなら負けません」
『おぉ!』と、さらにざわめきが起こる。
フロアボスなら強くないと駄目だろう。
「なるほどですね。確かにフロアボスは強くないといけない。理想的な答えです。藤堂!」
「は!」
面接官三人が座っている付近に、直立して構えている男性がいるのは気付いていた。
ボディーガードと思っていた。
禿げ頭でサングラスをかけている。
長身で、筋肉隆々。
その男性が返事をした。
男性が藤堂という人で間違いないだろう。
でも何故藤堂さんを呼んだのだろう。
「こちらの藤堂と勝負してもらえますか? 試験です。ご安心ください。暴行罪には問われません。お互いに。ダンジョン業を営む者で、法律に罰せられない行為があります。今回の面接もそれにあたります。どうでしょうか?」
正直ここまでいかついお兄さんを現実で見たことがない。
でもこれは試験なんだ。
「かしこまりました。お願いします」
藤堂さんはジャケットを脱いで準備をしている。
俺も戦闘の準備をする。
「では、始めてください」
お互い構える。
勝負は一瞬だった。
「う、うぅ……」
地面に崩れ落ち、うずくまる藤堂さん。
「申し訳ないです……」
試験とはいえ、申し訳ない。
フロアボスになったら、こういうことが日常茶飯事なのだろう。
慣れるしかない。
俺が社会不適合者と言われている理由。
それは高校時代まで喧嘩を買われたら絶対に買っていたことだ。
もちろん、こちらから喧嘩を売ることはなかったが、売られた喧嘩には毎回圧倒的に勝っていた。
改めて考えてみれば逃げれば良かったとかはあるが、今となってはどうしようもない。
全然役に立たないことだと思っていたが、こうして役に立つことがこようとは。
まあ、それ以外にもコミュ障ということが原因なのだろう。
大学に入ってからは喧嘩をしなくなったが、黒歴史としか言いようがない。
「藤堂を一瞬で。やりますね。流石は特技というだけあります。腕に自身があったというわけですね」
感触は悪くない。
これで合格になればいいのだけれど。
「久能さんは待っていてください。他の方の面接を行います。そうだ、面白いことを考えました。この二人は藤堂の部下です。この二人のうちの一人でも倒せたら合格としましょう。安心してください。二人は藤堂よりはるかに弱いです」
さきほど藤堂さんをどこかに運んでいた黒服の人物がいた。
それが今呼ばれた二人だ。
有川さんが言うように二人は藤堂さんより体格は小柄だ。
それでもかなり強そうな雰囲気だ。
「あんな弱そうなやつでもやれたんだ! 俺もやれる!」
「俺もだ!」
弱そうなやつは余計だ。
何故か俺の存在が志願者を奮い立たせてしまった。
志願者が次々と二人に殴りかかる。
「ぐ……がは……」
でも、志願者たちは次々と床に這いつくばっている。
それだけ二人が強いのだろう。
「困りましたね。合格者なしですか? 久能さんはどうですか? 二人と戦う気は?」
合格のためには仕方ないだろう。
「やります。やらせてください。お二方、お願いします」
「素晴らしいです。では、始めてください」
「俺たちもお前とやりたいと思ってたんだ。藤堂先輩がお前みたいに弱い奴に負けるわけがない」
二人は藤堂さんを尊敬しているのだろう。
それが、俺みたいに弱そうな奴に負けて悔しいのだろう。
でも、俺も負けるわけにはいかない。
もう、無能とは呼ばれたくないから。
「うぐ……がは……」
勝負は一瞬で決まった。
俺の勝ちだ。
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