第3話社会不適合者、内定を勝ち取る

「実力は本物のようですね」


 有川さんから実力を認められたようだ。

 これで、合格なのか?


「ですが、困ったことになりました。実技の面接官がいなくなりました。まだ志願者がいるというのに。そうだ、久能さん、貴方が残りの志願者全員と戦って勝てば合格としましょう」


 また無茶なことを言い出した。

 これで本当に最後にしてほしい。


「こいつ本当に強いのか? 弱そうだぞ」


「でも、強そうな面接官ボコしてたぞ……」


「でも、やらないと合格できない」


 志願者たちは俺の強さを値踏みしている。

 そして、覚悟の決まった者から向かってきた。


「ぐ……うぅ……いてぇ……」


 向かってきた者は皆床に崩れ落ちている。

 向かってくる女性がいなくて良かった。


 残りはまだ様子を見ている者や、完全に戦意を失っている者たちだ。

 その中には女性もいるので、早く終わって欲しいと思う。


「どうしました? もう終わりですか? もちろん、実技だけでなく、筆記や面接の内容も加味しますが、ここで活躍しておけば評価は上がりますよ」


 有川さんは志願者たちに発破をかける。

 逡巡している者もいるが、もう来ないようだ。


「わかりました。皆さん、ご着席ください」


 終わったのか? まだ安心できないが。


「久能さんに質問です。スキルを教えてもらってもよろしいですか? もちろん、貴方は覚醒者ですよね?」


 ダンジョンがこの世界に出現してから、スキルというものを所持する人間が登場した。

 世の理を覆すような、常軌を逸した力を持つものだ。

 覚醒者という。


「……」


 俺は逡巡していた。

 言うべきかどうか。


「どうしました? 確かにスキルについては黙秘権がありますが、その力を明かしていただければ評価に繋がるかもしれませんよ」


 スキルについては、それを言うかは黙秘権や拒否権が存在する。

 法律で定められている。


 その巨大すぎる力は、周囲を畏怖させ、覚醒者を孤立させる可能性がある。

 それに、その内容を言ってしまうと能力がばれ、不利になる可能性や、言うことがトリガーになっているスキルの可能性もある。


 だが、俺の場合はそのどれでもない。


「どうしました? 拒否権を行使しますか? こちらは構いませんよ?」


「話したくないです」


「ほう。その理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「信じてもらえないと思っているからです」


「信じてもらえない? 何をです?」


「私のスキルです」


 恐らく俺のスキルを言っても誰も信じないだろう。

 それが、俺がスキルを言いたくない理由だ。


「気になりますね。余計に知りたくなりました」


 俺は何故か有川さんなら信じてもらえると思った。

 やばい人だけど、何故かそう思えた。


「……です」


「はい?」


「創造主です」


 有川さんは何を言っているのかわからないといった表情をしている。

 志願者たちも、顔を見合わせている。


「聞き間違いでないのなら、創造主と聞こえたのですが?」


「はい。間違いありません」


 周囲はざわついている。

 しょうがないだろう。


 こいつ、何を言ってるんだというのが正直な感想だろう。


「ははは、凄い! SSSランクのスキルじゃないですか! いえ、それ以上です! 素晴らしい」


「信じていただけるのですか?」


「確かに完全に信じていると言えば嘘になります。でも、胸の高鳴りが抑えられないのも時事です。何か証明は出来ますか?」


「わかりました。皆さんの中に転移魔法か転送魔法の使い手はいますか?」


 俺は鞄から必要なものを取り出す。

 そして、志願者に手伝いをお願いした。


「はい。私、転送魔法使えます」


 そう言ったのは、柔和な表情をした黒髪、ポニーテールの女性だった。

 名前は折原さんという。


「何をされるおつもりですか?」


「見ていてください。それと、ここでは無理ですので、ビルの外に出ていただけますか?」


 俺は有川さんに外に出るようにお願いした。

 志願者たちもついてきた。

 興味があるのか。





 皆が外に出たのを確認してから俺は始める。

 小型の3Dプリンターから物体を作り出す。


 それを折原さんにある地点まで転送してもらう。

 作り出す、また転送してもらうを繰り返した。


「おお、凄いですね。確かに凄いですが、創造主というスキルの割には地味のように感じるのですが」


 家にある3Dプリンターならもっと大きなものが作れるが、これは簡易版だ。

 大きなものを作るには、小分けにして何度も作るしかない。


「おいおい、これ本当か……?」


「本当なら歴史的な事件だぞ……」


 効果が出てきた。

 志願者たちはスマホに夢中になっている。

 ニュースを見ているのだ。


「貴方たち、何をしているのですか? 試験中ですよ」


 有川さんは志願者たちを咎める。


「まあまあ、有川さん。有川さんもニュースを確認されてはいかがですか?」


「はぁ……気にはなるのですが、今は貴方のスキルの方が気になります」


「それが関係あるんですよね」


 有川さんはポケットからスマホを取り出し、ニュースを確認している。


『信じられないことです! 皆さん、ご覧ください!』


 ヘリコプターに乗ったニュースキャスターが、何かを指さして興奮して、その状況を実況している。


「こちらは太平洋上空です! ご覧ください、眼下には島、いや、大陸なのかわかりませんが、突如大地が出現しました。繰り返しお伝えします……」


 引き続きニュースキャスターは状況を伝えている。


「まじかよ……なんだこれ……」


「信じられない……」


 志願者たちは騒然としている。


「まさか、これは貴方が……」


 志願者たちは混乱して事態が飲み込めていないが、有川さんは気付いたようだ。

 流石は大企業の面接官。


「そうです。私の能力です。太平洋上に新大陸を創りました」


「合格! 合格よー!」


 就活100連敗しましたけど、月収1000万円の企業に内定しました。

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