就活100連敗した社会不適合者、ダンジョンボスになって人生をやり直す~3Dプリンターでモンスターを作って挑戦者を撃退していたら鬼バズっていました~

新条優里

第1話社会不適合者決意する

「はぁ、俺はなんて無能なんだ……」


 大学の同級生が次々と就職を決めているというのに、俺は絶賛敗北中だ。

 しかも、1社や2社ではなく、100社という大記録樹立中だ。


 少子高齢化で続く売り手市場のため、就職は容易のはずである。本来なら。

 要は俺は無能らしい。企業が欲しがらないということは。


 そんな余裕のない俺でも二の足を踏んでいる業界がある。

 それは、ダンジョン業界だ。


 ダンジョン配信者という職業が一躍人気になったが、俺はダンジョン業界には行きたくないのだ。

 理由は死にたくないからだ。


 ダンジョンで有名になる人数よりも、死んでいく人数の方が数十、数百倍多い。

 そのため二の足を踏んでいたが、ここまで来たら贅沢は言ってられない。


 俺が受ける会社は株式会社ダンジョンエンターテイメントだ。

 ダンジョン業界を受ける気がなかった俺はダンジョンのことについて疎かった。


 そこでネットでダンジョンのことについて調べてみた。

 ダンジョンの所有権は国が所有している。


 ダンジョン庁が国の認可を受けた企業に内部の探索、研究、魔石の採掘を行わせていた。

 だが、内部にはモンスターが生息しており、企業の力だけでは足りず、民間の人間にも資格制で内部の立ち入りを許可した。


 資格を与えられた人間たちの本来の目的と役目は、魔石の採掘を行いそれを換金するだけだったが、モンスターと戦いその様子を配信することになった。


 だが、民間企業、特に大企業は配信業に目を向けなかった。

 広告収益が主な配信業よりも、国が莫大な金額で買い取ってくれる魔石採掘事業の方が割が良かったのである。


 魔石採掘事業に注力していた大企業だったが、誤算が生じた。

 国が魔石採掘を制限し始めたのだ。


 ダンジョンは下に行けば行くほどモンスターの凶悪度が増す。

 そのため、人類はダンジョンを完全に把握したわけではないが、踏破したエリアの魔石埋蔵量を国と民間の研究機関が調べたところによると、踏破エリアの魔石は7割取りつくしていたとのことだった。


 国は魔石採掘を制限し始めたので、民間企業は別の事業に転換を余儀なくされた。

 それが配信業だったのだ。


 俺が面接を受けるのが株式会社ダンジョンエンターテイメント。

 国の魔石採掘制限のあおりを受けて配信業に転換した、典型的なダンジョン企業である。


 ダンジョン配信は、人類が配信業を始めたころから様変わりしようとしていた。

 ダンジョン上層のモンスターはほぼ狩りつくされ、配信者たちも討伐に慣れていたためリスナーは飽き、次第に下火になりつつあった。


 下層や深層といったエリアにはまだまだモンスターはいるが、強すぎて配信する者は少ない。


 そこでダンジョンエンターテイメント社が考えたのは、フロアボスを人間にやらせるということだった。


 先のエリアに進ませないフロアボスと、先に進みたい挑戦者の戦いが見所になると考えたのである。


 当初の人間対モンスターという構図から、人間対人間という構図に変わっていったのである。


 俺はダンジョンエンターテイメント社の目の前までやってきた。

 緊張感が高まってくる。


 今回、ダンジョンエンターテイメントが募集している仕事の内容はダンジョンのフロアボスである。


 月給約20万円という仕事に俺は100社落ち続けた。

 それが、月給1000万円という仕事の面接に来ている。

 命の危険があるということから、給料は破格だ。


 怖気づいている部分もあるが、大学に戻って落ちたことを報告すると、また無能扱いされるだろう。

 それだけは嫌だ。


 何としても受かりたい。


 受付にやってくると面接会場に案内された。

 流石ダンジョン業界でナンバーワンの企業だ。会場の広さに圧倒された。


 会場の広さだけでなく、志願者の人数の多さにも圧倒された。

 命の危険はあるというものの、給料の高さは魅力だ。

 その給料の高さに惹かれて皆集まったのだろう。


 午前中は筆記試験だ。

 ダンジョンの歴史や、一般常識が出題されている。


 なになに、『魔石はその産出量によって国力が決まるので、積極的に持って帰るべきである。〇か×か?』


 簡単なひっかけ問題だ。

 確かに魔石は電気や石油に代わるエネルギーとして注目され、実際国力を決めるとさえ言われている。


 だが、国の魔石は踏破エリアの7割が取りつくされたんだ。国が制限をかけ、持ち帰ることが出来る量は決められている。だから×だ。


 次の問題。

『現在、人類はダンジョン内部の魔石を何割取りつくしたか? 次の選択肢から答えよ。①6割 ②7割  ③8割 ④不明』


 これも簡単なひっかけ問題だ。

 踏破エリアの魔石は7割取りつくしたが、問題文にはその指定がない。


 未踏破エリアの魔石埋蔵量は不明だ。

 なので、答えは④だ。


 次の問題。

『現在の魔石の現金への交換は固定レート制か、変動レート制か答えよ』


 現在魔石は制限がかかっていて勝手に採掘できない。

 ただし、制限がかかっているだけで、完全に採掘が出来ないわけではない。


 国が量を割り当て、その分だけ採掘できる。

 誰に割り当てるかは抽選で決まる。

 なので、採掘の抽選は回線がパンクするほど人気だ。


 当初魔石が大量に採掘できた時は、固定レート一つ100万円だったが、現在は変動レート一つ約2000万円で推移している。


 数が希少になった分、一つ一つの価値が上がったのだ。

 当時売らずに持っていた人は億万長者だろう。


 魔石の種類によっても金額が変わり、火魔石や雷魔石はエネルギーに乏しい我が国にとって貴重で、国が高額で買い取ってくれる。


 問題文に現在とあるので、答えは変動レート制だ。


 筆記試験が終わった。

 手応えありだ。

 勉強した甲斐がある。





 午後から面接試験だ。

 面接官らしい女性が入ってきた。


 いかにも仕事ができるキャリアウーマンという雰囲気だ。

 だが、ここで恐れている場合ではない。


 ここで落ちたら101連敗だ。

 無能呼ばわりされないためにも、ここは何としてでも受かりたい。

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