#13

 金髪ギターの男改め無一曰く、この告白には心当たりがあると言う。彼の所属する軽音サークルに、斯くも激しく遠回りなことをしでかすような乙女が一人いるのだと言う。彼女に好意を持たれていることまでは察していなかったようだけれど、まず間違いなく彼女だろうと金髪ギターの男は断言した。そこまで言わしめるだなんて、その乙女はよっぽど個性的な人間性を有しているに違いない。

 まさかキャンパス中を探し回る訳にもいかないので、放送室を借りて彼女を執行部本部へ呼び出すことにした。

 而して、執行部本部の門戸を叩いたのは、如何にも大人しそうな乙女であった。常に何かに怯えているような目。小動物のようにびくびくしながら歩く姿。長い前髪は、人の視線から己を守るための壁のように見える。挙動不審で、視線は全く交わらない。彼女は恐らく、本来人とも交わらない。

 扉の陰に隠れながらこちらを伺う彼女は、金髪ギターの男の姿を認めるなり状況を察したようである。「ひっ」と本当に恐怖するような声を上げて逃げ出そうとしたけれど、しかしもう遅かった。部長が「おい」と一声、ドスの利いた声で呼び止めると、彼女は俯きながらたどたどしい足取りで部屋へと這入ってきた。ボクは部長が怖い。

「あ、あの――」と訥々とした口調で何かを切り出そうとした彼女であったけれど、しかしその言葉すら端緒で遮られた。ただし、遮ったのは部長ではなく、本件には無関係のはずの木之実千秋であった。

「い、伊吹いぶきさん?」

 伊吹と呼ばれた気弱そうな彼女が千秋を見ると、同じように「ち、千秋ちゃん!?」と驚いた。しかし感動の再会という感じでは無い。寧ろ気まずそうな空気が流れる。ボクはこの時点でおおよそ二人の関係を察した。

 伊吹こそが千秋が後悔懺悔室で懺悔していた少女その人なのではあるまいか。 

 結果から言えば、この閃きに似た予想は、大当たりであった。

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