第27話
気になったので、なぎさんの配信をスマホからパソコンで見るように変え、慧のメッセージを見た。
『俺は今、配信を見ているが、やっぱり芸能人みたいに表に出ている人間とは、あまり関わらない方がいい。お前のように、特別な力があるなら尚更な』
特別な力、と言っているということは、僕の霊感を信じてくれたのだろうか。
子どもの頃から一緒にいるけど、信じて貰えないことがデフォルトだから戸惑う。
既読をつけたがしばらく返事できずにいると、さらにメッセージがきた。
『ところで、死神少女ってお前なのか?』
「えっ」
思わず声が出た。
話題になっていた子どものころに気づかなかったのに、どうして今頃分かったのか不思議だったが、なぎさんと関わったことで察したのかもしれない。
慧を誤魔化すのは難しいだろうなあ。
そんなことを考えていたら、慧から電話が掛かってきた。
慧からの電話なんて日常茶飯事なのに、ちょっと緊張する……。
ベッド脇に腰掛けながらも、背筋をピンとしてから電話を取った。
「も、もしもし……」
『今、大丈夫か? 既読がすぐについたから、部屋にいると思ってな』
「うん、大丈夫」
『どうせ昨日いたチャラい奴の配信を見ていたんだろ?』
言葉のチョイスや話し方が妙に攻撃的だ。
霊感があるとちゃんと話さなかったことを怒っているのだろうか。
それでも、今まで通りに話せることにホッとした。
幼馴染――たった一人の友達を死守できたようだ。
「どうせ、って言うな。なぎさんは陽キャだけどチャラくはない。ちゃんと『いざなぎさん』って呼べ」
『どう違うんだ? 神の名前を使うなんて、態度だけじゃなく思考回路も図図しい奴だ』
どうやら慧の攻撃性はなぎさんに向けられていたようだ。
「なんでそんなになぎさんの印象が悪いんだよ」
昨日は僕の味方をして、慧に物申してくれてから、言われた側がすると気に入らないのはあるかもしれないが……。
『お前によくない影響を与えるだろ? さっきもお前のことを話していたし……。あんな奴でもファンがいるから、妬んだ奴が攻撃してきたらどうするんだ。メッセージでも送ったが、あまり関わるなよ。おもちゃにされるぞ』
「おもちゃだなんて……」
否定しようと思ったけれど、なぎさんにそのつもりがなくても、リスナーが弄っておもちゃのようにされている人が確かにいる。
ニートの仁藤さんもそんな感じになりつつあるし、過去にもなぎさんの配信に上がった個性的なリスナーは、愛されることもあれば批判されて消えていった人もいた。
人の注目を浴びる、ということは色んなリスクがある。
そんなことを考えていたら、ふとあの女の霊の仮面の下にあった目を思い出した。
レンズのような、あの目は――。
「それと……やっぱりお前が死神少女なんだろ?」
「!」
今、何か思い出したような――気づいたような感覚がしたのだが、すぐに消えてしまった。
そうだ、死神少女の正体は僕、ということを慧に話さないと……。
墓まで持っていこうと思っていたことを告白するとなると、緊張するかと思ったのだが、意外に今の僕は落ち着いている。
「実は……そうなんだ。でも、なぎさんには言ってない。エキストラとして居合わせて、あの現場で霊を見た、ってことは伝えてあるけれど……」
そう答えると、慧は考えて混んでいるのか無言だったが、しばらくすると「そうか」と答えてくれた。
『……その方がいいだろう。必要以上にお前に興味を持たせることはない』
人の死を予言するようなことをしたし、色々と気になると思うのだが、慧は詳細までは聞いてこなかった。
『信じていないから』『どうせ嘘だから聞かない』というわけではないと思う。
慧なりに気遣ってくれているのかもしれない。
『あいつは信用できるかもしれないが、あいつを慕う大勢の中には、お前の害になる奴がいるはずだ。俺が見たコメントの中にも、誹謗中傷になるようなことを言っている奴がいたぞ?』
見ないようにはしていたけれど、『出しゃばり』『消えて欲しい』という感じのコメントはあった。
「……そうだね。でも、批判したい人達の気持ちも分かる。だから僕も、必要以上に関わるようなことをしないよ。もう表には出ないようにするし」
『それならいいが……。あっちの方が有名人だからって、お前が軽んじられていいわけじゃないからな。俺にとっては、どんな有名人よりお前の方が大事だ』
「大事だ」とか、そんなにストレートに言われるとちょっと照れるが……率直に嬉しい。
「うん、ありがとう」
今までも仲はよかったけれど、僕の中でわだかまりになっていたものがなくなって、さらに仲良くなれる気がした。
『お前の霊感についてだが……信じてやれなくて悪かった。でも、お前を信じていなかったわけじゃなくて……』
「分かってるよ」
慧が説明しようとしてくれたが、苦笑いでそれを止めた。
もう十分気持ちは分かっているし、前にも思ったが、分かって貰おうとしなかった僕も悪いのだ。
『正直、霊なんて存在については、今でも半信半疑だがな。でも、昨日、お前が俺に言ったことは全部当たっていた。……すごいな』
「すごくはないよ。別に努力して手に入れた才能じゃないし」
『貴重な才能だから、すごいでいいだろ』
「そう、かな?」
なぎさんといい、慧といい、最近褒められることが多くて困る。
照れて黙っていると――。
『ゼロさんに明日も会うんだー』
配信の音は下げていたのだが、ちょうど沈黙のタイミングになぎさんの声が響いた。
しかもセリフが、慧にはあまり聞いて欲しくないものだった。
聞こえていないことを願ったが……。
『鈴』
「…………」
名前の呼び方で、願いが叶わなかったことを悟った。
そういえば向こうでも配信を見ているんだっけ……。
『時系列を確認したいんだが、俺の誘いを断ってこいつの誘いを受けたりしていないよなあ? 幼馴染の誘いを断って、ポッとでの男の誘いを受けたりしていないよなあ?』
ポッと出の男、ってなんだ……。
僕は彼氏に浮気がバレた人みたいになっているのは何だ?
そう思うが、先に誘ってくれていたのを断ったことは確かなので気まずい。
『配信にコメントして聞いてやろうか? 俺のユーザーネームは……。事故物件住みのゼロの親友で通じるか』
「何言ってるんだよ、下手に関わるなって言ったのはお前だろ?」
今日のコメントの流れるスピードだと、慧がコメントしたら読まれる可能性もありそうだ。
配信で推しと幼馴染の変なやりとりするとか、全方位に申し訳なくて卒倒する!
「とにかく、来週! 来週遊びに行こうな! じゃあ、僕は忙しいから……おやすみ!」
そう言い逃げると通話を切った。
「慧が変なことを言うから、焦って変な汗かいたな」
配信の音量を戻し、ベッドで寝転がって画面を見る。
なぎさんは僕があげたなぎたまに手を突っ込んだまま、まだ僕のことを話していた。
少しだと思っていたのに、がっつり時間を使っている……。
『明日はどんな服着て行こうかなあ。ゼロさん、黒い服が好きみたいだったから、明日はオレも黒にしようかなあ』
――デートか
――乙女で草
――ニートの一張羅借りろ
僕の話題なのに、コメント欄が比較的平和なことには安堵したが――。
「え、明日……お揃いになる……?」
そんなの申し訳ない!
黒は着て行かない方がいいだろうか。
あ、でも、なぎさんは僕が黒を着てくると思っているわけで、外したらがっかりするかも……!?
何が正解!?
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