第19話

 会話が途切れたところで前の車が進んだので、なぎさんもそれに続く。

 慧と来たときより順調に進んでいるので、一時間もかからないだろう。


「隣のレーンより早く進んでない? ラッキー」


 恐らく交互で注文を聞いているから、そんなに違いはないと思うが、ほぼ同時に来た車より前にいることが嬉しいようだ。

 そんな可愛い一面に、緊張が少し和らいだ。

 なぎさんがまとっている空気も柔らかくなっている。


「話の続きだけどさ」

「あ、はい」


 なぎさんがこちらを見たので、僕も横を向く。


「オレはどんな方法を使っても、死の真相を知りたいんだ。そのために広く情報を得られて、オレでもできる『配信者』っていうのを選んだんだ。でも、有名人の死が関わっているものを扱うとなると、多少なりとも問題あるだろ? だから、看板にしているのは『死神少女を追う』なんだ」


 確かに、都市伝説を掲げた方が批判は少ないだろう。

 なぎさんの活動背景には、そういう考えがあったのか。


 そういえば――。

 死神少女のことを話しているときでも、香坂さんの名前を出すことはなかった。

 あくまでも『死神少女を探す』ということに徹している。

 ただただ好きで配信を見ていたけれど、あの楽しい雰囲気の中に、情報の集めやすさや批判を抑えるための配慮がされていたようだ。

 そういう背景や、なぎさんのことを知ることができて嬉しい。


 でも、なぎさんは『死神少女』には思っていたほど興味がなかったのかもしれない、と少し残念に思ってしまった。

 少し、というか、かなり……。


「それに……死神少女は本当に見つけたいし!」

「え」


 ちょうど死神少女のことを考えていたのでドキッとした。


「配信で話してることは本心だよ。死神少女が真相を知っているかもしれない、っていう希望もあるし……何より可愛い! だから会いたい!」


 和ませるためにこんな話をしてくれているのだと思うが、直接「可愛い」と言われたようで照れる。

 暗くてよかった……。


 再び前の車が前進したので、それに続く。

 注文をする場所にあるメニュー表も、よく見えるようになってきた。


「とにかく、オレは真相を知りたいんだ。ゼロさん、言っていたよね? 事故物件にいたあの女の霊は、香坂大河に憑いていたものだ、って。もしかして……死神少女が現れた、あの撮影現場にいた?」

「!」


 突如自分に向けられた質問に、心臓が飛び出そうになった。

 まさか、現場にいたことを見抜かれていたと思っていなかったので、頭が真っ白だ。


「子どものエキストラがいっぱいいたっていうから、そのうちの一人だったのかな、って思ったんだけど……違うかな?」

「!」


 なるほど、そういう予想だったのか!

 僕が死神少女だということを話した方がいいかもしれない、という考えも浮かんだが……。

 さっき「可愛い」なんて言って貰ったあとに名乗り出るのは……ちょっと……。

 ただの『霊が見える子ども』ということにすれば、見たことを話せるから情報提供はできる。

 死神少女であることを隠したままでも情報は伝えられそうだから、今はとにかく隠そう……!


「そ、そうなんです」


 心苦しいが、死神少女であることは隠して、なぎさんの話に乗る。

 すると、なぎさんが目を見張った。

 驚きの中に、期待が篭っている。


「やっぱり! 協力して欲しい! オレは真相を知りたいんだ! お願いします!」


 そう言ってなぎさんは頭を下げた。

 推しに頭を下げられて、僕は焦った。

 ど、どうしよう……!


 香坂さんの死の真相は……僕も知りたい。

 ずっと誰かが暴いてくれないかと、他力本願な願いを持っていたけれど――。


「わかりました。僕にできることなら、なんでもします」


 なぎさんと協力して、真実に辿り着きたい。


「ほんと!? やった! ありがとう!」


 笑顔になったなぎさんが、僕の手を取って握った。

 え……握手券を買ってないのに、握手して貰うなんて……!


「本当はハグしたいところだったけどなあ! さすがにシートベルト外すのはまずいから」


 シートベルトしなければいけない状況でよかった……。

 恐れ多くて卒倒するところだった。

 

「目指すとことは『香坂大河の死の真相解明! オレの呪いを解く! そして、死神少女をみつける!』 相棒、よろしく!」


 あ、相棒!?

 それは恭介さんでは!?

 びっくりし過ぎて言葉が出ない。


 それに、えっと……死神少女は隣にいます……ごめんなさい……。

 あと、そろそろ手を放してください……!


 動揺し過ぎて顔が熱くなってきたところで、なぎさんが首を傾げた。


「……あのさ、気になってたんだけど」

「?」

「さっきからスマホ鳴ってない?」

「!」


 指摘されて耳を澄ませると、確かに振動でブーブーなっている音がした。

 鞄の中のスマホが鳴っているようだ。

 緊張していたからか、全然気づかなかった。

 見なくても誰からの連絡か分かる……多分、慧だ。

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