第13話
後悔しながら画面を見ていたら、恐ろしいことに気がついてしまった。
「いざなぎさん! 右手の甲を見せてください!」
『ん? 右手の甲? ……あ!!』
いざなぎの手には、女の霊と同じ、あの目がついていたのだ。
瞼は閉じられていたが――。
『どうしまし――』
ニート霊能力者が覗き込んで手を見た瞬間、ぱちりと瞼が開いた。
『うわああああっ!!』
驚いたニート霊能力者が、後部座席のシートまで飛び退いた。
恭介さんも運転しながらいざなぎの手を確認してギョッとしている。
『なぎ君! それ、どうしたんですか!?』
『わ、分かんない! なんで!? オレの手に目が!?』
『それ……さっきの女の目に似てませんか!?』
恭介さんは運転しつつも気づいたようだ。
――目?
――何の話?
――なんか怖い話してる?
いざなぎの手にある目も、リスナーには見えていない。
チャット欄には混乱が広がっているが、説明している余裕がない。
『とにかく、明るい場所に行きます! 少し先にコンビニがあったはずなので!』
恭介さんが動揺を抑えながら、ハンドルを握っている。
『まさかその目、わたくしたちにもあったりしませんよね!?』
ニート霊能力者が怯えながら自分の手や顔を確認しているが、目は見当たらないようだ。
全身を確認してないので、まだ安心はできないが、とりあえずはホッとしたようだ。
『いざなぎさん。そ、それ、痛くないんですか?』
ニート霊能力者に聞かれ、いざなぎはあの目をツンツンと突いた。
触れるなんてすごいな……。
『痛くない……自分の手の間隔がするだけ。リスナーにはこれ、見える?』
そう言って画面に手の甲を映したが、チャット欄には『?』が大量発生している。
『やっぱり見えないか。これ、気持ち悪いな……でも、ちょっとかっけえ』
手を掲げてそう言っているが、そんな呑気なことを言っている場合じゃない!
「今すぐにお祓いに行ってください! 命に関わるかもしれないから!」
『え、命!?』
僕の声に焦って反応したのは恭介さんだった。
『どういうことですか!? もっと詳しく聞かせてください!』
「それ、おそらく呪いですから! 僕は見えるだけなので何もできません! お寺に相談するとか、とにかくお祓いができる人に助けて貰ってください! 今すぐに! 僕も調べてみます!」
僕はそう言うと、通話を切った。
『え!? 切れちゃった……』
配信画面を見ると、戸惑っているいざなぎが見えた。
ごめん。僕と話すより、一刻も早くお祓いに行って欲しい……!
『絵師さんが仰っているのだから、相当まずい状況かもしれませんね。お祓い……仁藤さんはできま――』
『せん! できません』
『ですよね』
恭介さんは質問したものの、期待していなかったのか食い気味に納得した。
『とにかく、お寺さんに相談してみましょうか』
チャット欄には『お寺配信!』『除霊配信よろ』という言葉が流れているが、さすがにそういうわけにはいかないだろう。
『そうだな。収集つかないから配信閉めようか。ってことで、大混乱だったけど、今日の配信はここまでにします。またね!』
残念がるコメントが流れたが、すぐに画面には『オフライン』の表示がでた。
僕にとっても『特別』になった、いざなぎの特別配信は混乱の中で幕を閉じた。
※
オレが配信を切ったあと、恭さんはコンビニに停車した。
ニートはトイレに行って、オレと叔父は買い物をしてから車に戻り、ホットコーヒーを飲んでいる。
温かさにホッとしたが、コーヒーを持つ手に無機質な黒い瞳が見えた。
「呪い、か。昨日まで幽霊を見たことがなかったのに、体にこんなものがくっつくとはなあ」
そう呟くと、叔父もオレの手に目を向けた。
「気持ち悪っ。とんでもないことになったなあ。今、会社に残っていた奴に伝えて、すぐに相談に乗ってくれるお寺さんを探してるから。仁藤さんにはタクシーで帰って貰って、俺たちは直行しよう」
「分かった」
オレが頷くと、叔父はタブレットで作業を始めた。
忙しい人だから、色んなところに対応しているのだろう。
コンビニを眺めていると、トイレから出てきたニートが買い物を始めたのが見えた。
手にはビッグサイズのポテトチップスと炭酸ジュースを抱え、からあげまで買っている。
すごく怯えていて心配だったが、あれだけ食べる気力があるなら大丈夫そうだ。
ふっと笑うと、ずっと気になっていることをぽつりと口にした。
「ゼロさん、『香坂さんを狙っていたのと同じのがいる』って言ってたけど、どういうことだろう」
つぶやきを聞いて、叔父が作業している手を止めた。
「大河君が生きていたころに会っていて、同じ霊が憑いているのを見た、としか考えられないね」
叔父の考えに頷く。
「やっぱりそうだよなあ。死神少女が死の宣告をしたときには、子どもエキストラがいっぱいいたっていうから、その内の一人だったのかもしれない」
「たしかにその可能性はあるね」
「エキストラの情報が手に入ったら、ゼロさんの情報も分かるかな……」
ゼロさんの絵にすごく惹かれ、以前から関りを持ちたいと思っていた。
絵を依頼したりして、一緒に仕事がしたかった。
今回、霊感でオレたちをサポートしてくれて、その思いはますます強くなった。
なんだか、オレ達は知り合うべくして知り合ったような、運命的なものを感じる。
言葉の端々や、声のトーンから、自分の霊感に良い感情がないことが伝わってきた。
目立つことも苦手そうだった。
それなのにコメントで冷たいことを言われても、オレたちを助けてくれた。
「良い人なんだろうな。オレ、ゼロさんに会いたい」
そう言うと、叔父が「待ってました」と言わんばかりのニヤリ顔になった。
「ゼロさんのイラストを、歌枠のサムネイルに使わせて貰ったでしょ? その時に、お礼でステッカーをプレゼントしてるんだよ」
「それはつまり……?」
「住所が分かる」
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