第14話
通話を切ってから、絵を乗せている僕のSNSアカウントを見ると、知らない人からたくさんメッセージが着ていた。
おそらく、いざなぎのリスナー。
内容はひどいもので――。
『かまってちゃん乙』『嘘乙』『病気乙』
いざなぎが諭してくれたときは、みんな分かってくれたようだったが……。
推しの手前、抑えていた意見を僕に直接言いにきたか。
普段の僕なら凹んでしまうかもしれないが、今はそれどころじゃない!
メッセージを受け付けない設定にして、SNSを閉じた。
とにかく、いざなぎの力になれることをしなければ……!
お祓いに行ってくれたら大丈夫だと思うが、できるかぎりのことはしたい。
僕も霊にとり憑かれたことがあり、近くにある神社にお参りしていると自然に取れていくが……。
でも、いざなぎの呪いのような強力なものは受けたことがない。
あれほどの呪いなら、お参りくらいではなんともできないだろう。
とにかく、テレビやインターネットで見たオカルト番組の中で、効果がある除霊やお祓いをしている、と思ったものを書き出す。
そして、恭介さんに「参考にしてください」と送っておこう。
恭介さんは映像制作会社に勤めているから、そういう業界に繋がりがあるかもしれない。
力がある人と繋がれたらいいが……。
「あ、そうだ」
飾っているパペットのなぎたまを見る。
人形やぬいぐるみには魂が宿るという。
魂が宿った人形が、身代わりとなって災いから守ってくれる、と聞いたことがある。
推しグッズなんて初めて買ったから、僕はかなりなぎたまをとても大事にしている。
この子がいざなぎを守る身代わりにならないだろうか。
「いざなぎの近くに置いておくように、お願いしてみようかな」
そんなことを思いながら、パソコンで呪いを解く方法、お祓いなどの情報調べてまとめていった。
ネットに動画が上がっているものは、アドレスも記入していく。
黙々と作業したのだが、結構な時間を要してしまった。
時計を見ると、ちょうど日付が変わったところだった。
「かなり集中してたな……あ」
ベッドの上に置いていたスマホが、振動でブルブルと鳴っていた。
すぐに手に取り確認すると、いざなぎの配信が終わったあとから、通話の着信とメッセージが届いたという履歴がいくつかあった。
「全部
子どもの頃に、あの映画撮影現場に僕を引っ張って行った張本人だ。
昔はガキ大将みたいだったが、成長して『頼れる男』という感じの、背の高いイケメンになった。
小学生の頃は坊主に近い短髪だったが、今は赤みが強い茶髪をおしゃれに整えている。
慧も高校を卒業してから地元で仕事に就いた。
でも、うだつが上がらない僕とは違い、賃貸仲介を専業にしている不動産会社に就職してバリバリに活躍中。
綺麗で広いマンションで一人暮らしをしていて、毎日ビシッときまったスーツを身にまとい、ぴかぴかの愛車で出勤している。
子どもの頃から、僕たちはまったく違うタイプの人間だったが、年々差が広がって、今では天と地くらい離れているようだ。
それでも、今なお仲良くしてくれているのはありがたい。
連絡もいつも、慧の方から小まめにしてくれるのだが……今日は何の用だろう。
まずはメッセージを見ようと既読をつけた途端、電話が掛かってきた。
「え、早っ」
既読がつくのを見張っていたのか? と思うくらいのスピードでちょっと引く。
「もしもし? 慧?」
『
「見るより早くかかってきた。何かあった?」
『いや、この週末も一緒に飯を食いに行くだろ? 予定はどうかなと思って。何時からがいい? 朝から出てちょっと遠出するか?』
行くだろ、って決定事項か?
先週も行ったし、先々週も行った。そんなに毎週僕と行かなくても……。
学生時代からの友人って、学生じゃなくなっても、こんなに毎週一緒に過ごすものなのか?
「お前ならいっぱい誘われているだろ? そんなに構ってくれなくても大丈夫だよ」
慧は子どもの頃、僕の母に「鈴がおばけが見えると言っているのは、周囲の気を惹きたいからなの」と言われ、多分それを今も信じている。
だからずっと、慧的に僕は「精神的に問題があるから、助けてあげなければいけない子」なのかもしれない。
……慧がさっきのいざなぎみたいに、信じてくれたらなあ。
仲良くして貰っているのに、そこまで求めるのは贅沢か。
慧は霊という存在をまったく信じていない。
だから、今住んでいるマンションの一室も、事件が起きて人が亡くなった経緯がある、いわゆる『事故物件』というものだ。
僕も招待されて行ったことがあるのだが……。
待ち構えているように、ドアの前に女性の霊が立っていたのが怖すぎて、家に入る前に逃亡した。
家にいる慧と通話しているときにも、あの霊の声なのか、ぼそぼそと話す声が聞こえるときがある。
今は大丈夫だけど……早く切りたいなあ。
『他の誘いは平日とかに受けてるよ』
「週末もいけばいいじゃないか。っていうか、また彼女を作れよ」
僕はずっと非モテだが、慧はずっと人気者だ。
学生時代には途切れないくらい彼女がいたのだが、社会人になってからはいない。
『いや、そういうのはもういいよ。面倒くさいから』
「はあ……そんなこと言ってみたいよ。あ、予定だけど、今週はいい。やめとく」
推しが呪われてしまった中、楽しく遊べる気がしない。
配信があったら絶対に聞きたいし!
『え? 何か予定があるのか?』
「まあ、そんな感じ……」
慧にはいざなぎを推していることを話していない。
あと、呪いの話をしても、また「精神的に参っているのかもしれない」と心配されそうだ。
だから、何も話さないでおこう……。
『ふうん? 土日、両方?』
「……うん」
『もしかして……何かあったのか?』
「え。いや……何でもないけど……」
慧は勘が鋭いから困る。
余計なことを言わない内に通話を切りたいのだが……。
『じゃあ、来週は?』
「あー……来週にならないと分からない、かな」
『おい、現時点で何もないなら、予定としていれておいてくれよ。冷たいな』
「まあ、うん……」
『なんだよ、はっきりしないな。じゃあ、今から行っていい? まだもう少し起きているだろう?』
突拍子もないことを言い始めてびっくりした。
でも、慧は前にも突然来たことがあるから、本当に来るかも……。
今は推しを救うために忙しいのに!
「無理! ごめん、今ちょっと忙しいんだ……じゃあ! お前も明日仕事だろ? おやすみ!」
『ちょ、鈴!』
返事を聞かず、僕は慌てて通話を切った。慧、ごめん!
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