第10話
それに合わせてカメラも家の様子を映したが、あの女の霊は見えなくてホッとした。
体の目もほとんど開いてなかったし、仮面を被らされることもなかったから、三人は無事逃げ切れたようだ。
『なぎ君、大丈夫ですか? 忘れ物なんてしてませんよね?』
『……あ、うん。大丈夫』
『じゃあ、車の中で状況を整理しましょう。仁藤さんも……って、座るのは早いんかい』
腰が復活したのか、ニート霊能力者は二列目のシートに座って、ペットボトルの水をがぶ飲みしていた。
恭介さんといざなぎだけではなく、リスナーも呆れ気味だが、空気が和んだのはよかった。
二人も苦笑しながら、恭介さんは運転席、いざなぎは助手席に座った。
『はあ……とんでもなかった……』
『なぎ君にも水分補給をして、一息ついてください。その間に私は、絵師さんから頂いていたメッセージが気になるのでチェックしますね』
恭介さんはそう言うと、撮影に使っていたカメラを車に固定し、画面にいざなぎとニート霊能力者を映るようにセットした。
その後、画面外でメッセージチェックを始めたようだ。
『あ、オレも気になる』
いざなぎが横を向き、恭介さんが持つ画面をのぞき込んでいる。
あ、推しが僕のメッセージを見ている……!
そう思うと、メッセージを消したくなった……って、ああっ!
「死神少女関連の余計なことを送ってしまった!」
『香坂さんを死なせたのと同じのがいる!!!!』だなんて、死神少女しか分からないことだ。
自分の失態に気づき、慌ててSNSを開くと、該当メッセージを消した。
いや、もう全部消してしまえ!
『え、絵師さんのメッセージがすべて消えた……』
『ええっ!?』
恭介さんが画面を見て驚いている。
いざなぎも残念そうな声を出していて申し訳なくなったが、これ以上推しに関わるのはもっと申し訳ない。
僕は何もせず、半年ROMります。
『……まあ、こんなこともあろうかと、気になったところをスクリーンショットで保存してました』
『さすが恭さん!』
「ええ!? 恭介さん、有能すぎるだろ……」
問題のメッセージもスクショしているのだろうか。
二人はどんな反応をするのだろう、と身構えた。
『え……この内容』
画面を見つめたまま、いざなぎが驚愕している。
笑顔が消え、真面目な表情になったいざなぎにリスナーたちもざわつき始めた。
『……みんな、ごめん。今日はここで配信終わりにするわ』
「え!」
いざなぎの宣言に、チャット欄にも『え』と同じ反応が起きている。
どうして? 僕のメッセージが原因?
そうだとしたら、配信を楽しみにしていたたくさんのリスナーたちに申し訳ない!
『なぎ君、落ち着いて。配信はちゃんと閉めないと。まず、いったん状況を整理しましょう』
恭介さんがいざなぎを止め、話をまとめ始めた。
『今日は事故物件の探索をしたわけですが、我々は信じられない体験をいたしました。リスナーの方々は、霊の姿が見えましたか?』
恭介さんの質問に、『見えていない』という返答がずらりと流れた。
『では、二階の部屋の鍵が勝手に開いたこと、そして、自然と扉が開いたのは見ましたね?』
今度は、『見た』『音が聞こえた』と返すコメントが流れる。
『オレたちが見えたものが、リスナーには見えていないんだな……』
『え、あれって恭介さんの仕込みじゃないんですか?』
『そろそろぶっ飛ばしますよ』
ニート霊能力者が後ろから身を乗り出してきたが、恭介さんに叱られて引っ込んだ。
『これはちょっと……理解の範疇を超えているというか……。あ、仁藤さん。リスナーがニート解説しろ、今こそ仕事しろ、って言ってますよ』
『え! ああいうのは、わたくしも初めて見たので……ちょっと、対応外というか……。あれは怖すぎます……』
――スーツを失っただけじゃん
――やっぱりただのニートで草
――まじめに就活しろ
ニート霊能力者に対して辛辣なコメントが続き、だんだん可哀想になってきた。
僕だって現地にいても、見えるだけで何もできないし……。
盛り上げ役としては、いい働きをしたんじゃないだろうか。
『こ、ここはわたくしと相性が悪いというか、波長が合わなくて……。すみません、お役に立てず……社会のお荷物ですみません……ぐすっ』
チャット欄を見たのか、ニート霊能力者が凹んでいる。
子供部屋おじさんまっしぐらの僕も、同調してちょっと凹んだ。
『まあ、こんなことが起こるなんて……イレギュラー過ぎました。やっぱり、忠告をくださった絵師さんに直接お話し伺いたいですね』
「え」
『聞きたい! ゼロさん、見てますよね!? 今、通話できますか!』
油断していたところに、推しが話しかけてきて頭が真っ白になった。
「え……つ、通話!? 推しと会話!? 無理……あ」
動揺をしていると、恭介さんから『少しでいいので通話できませんか? ボイスチェンジャーを使ってでも構わないので』とメッセージが来た。
身元がバレないように配慮してくれるらしい。
「……話してみようかな」
配信以外で話したいが……。
今は配信者としては美味しい状況だろうし、協力したい気持ちもある。
不安になりながらも、ボイスチェンジャーが使える通話アプリの連絡先を教えた。
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