Panishment

* Panishment


 わたしは、UFOキャッチャーやら、お菓子すくい機やらが立ち並ぶ、狭い空間で拘束されていた(しかし、なんていう明るさ!)。椅子に座らされ、足首は椅子の脚に、そして両手は椅子の背に縛られている。身動きは、当然できない。でも、不思議にわたしはわたしを達観しているような気もする……


「この男がね」と、1人の男が引きずられて来た。Rだ。顔面はぱんぱんに膨れあがって、目の周りが青黒い。すでに苛烈な暴行を受けた後だ。


「あんたたちを逃がそうとしたんだってね?」

「あたしたちを?」と、取り巻きのなかにいたNT5。

「そう。お前たちが逃げるのは、いつも通りだし、予想通りのことだけれど……」

「だけど?」

「こいつは、大それたことを考えたらしい! あははっ」

「ふうん。関係ないね」

「いや、あるさ、少なくともこいつにはね」……わたしは、小突かれる。


 わたしには、事情が呑み込めなかった。Rが何かを自白したの? わたしたちの”アレ”は、そんなに罪な行為だったの? ……わたしにとっては、NT5の反応だけが気になる。


「おい、指を1本折ってやんな」


「警備隊」のリーダーの女が言い、従業員が数人集まって、Rの小指を折る。Rは、「ぎゃっ」という叫びを上げた。


「切っちまうわけじゃないんだ。情けないねえ」

「ひどい……」

「ところで、女」

「リオです」

「どうでも良い。ここがどんな場所プレイスなのか、知っているね?」

「知りません」

「おやおや。では、教えてやっても良い……」


「止めてくれ、オレだけが悪い!」Rが虫の息で口にした。

「あーあー。あんたはエリートだったねえ。ご苦労様、エリートさん。でも、お前は一つ思い違いをしていたよ。ここにはシステムなんかないんだ。お前がいくら優秀なハッカーでもね?」

「それはどういう意味……」

「文字通りの意味さ。そして、お前はこれから死ぬ」

「オレは死なない……」

「おや、エリートのうえにマッチョかい。大したもんだねえ、でも、コイツがこうなったら?」


 そして、わたしはここでは書けないようなことをされた。


 わたし以上に、虫の吐息のRのほうが顔を歪める。


「ははは、良いつらだよ」

「オレはなんとなっても良い……だから」

「見苦しい。虫が! あたしたちは皆虫なんだよ!」


 そこで、再びRの悲鳴。いつか、女のようだとRのことを思った、その思いがよみがえるようだった。


「支配人に引き渡したいところだけれど、あたしたちはもっと楽しみたい」残酷な笑顔で、女が言う。わたしの目は……すでにうつろだ。


「この女にあれを」

「まさか、蜘蛛?」と、NT5。

「そうさ」


 何人かの従業員が奥へと駆け出して行き(そんな必要は全然なかったんだ)、ガラス瓶を一つ抱えてきた。そのなかには、1匹の生々しい毒蜘蛛が入っている。


 男たちが、わたしの口を開き、わたしの口のなかへとその毒蜘蛛を入れようとする。わたしは必死に抵抗する。


「この蜘蛛はねえ、毒は大したもんじゃない。でも、その腹のなかで膨れてね? 飲んだ者の腹を突き破って出て来る、という始末さ。毒でやられれば一瞬だけどね、犠牲者はもっとひどい苦しみを苦しむことになる。さあ、飲みな!」

「止めてくれ!」


 わたしは、……ここで一瞬時が止まる。従業員の男たちはとまどっているようにも感じられた。1人はわたしの顎を抑え、1人はわたしの口を開かせようとする。でも、わたしは必死で抵抗をして、口を開かなかった。


 Rは、「止めてくれ!」と叫びながら、身をよじっている。「警備隊」の女は、むしろそのことを楽しんでいるようだった。


 わたしは、何が幸運だったのか、蜘蛛は飲まされずにいた。


 その間も、Rはもがいている。


「そのへんで良いだろう。おい、R。お前が従順にこのシステムに従っていれば、お前はいずれ支配人にもなれたと思うよ。わたしは残念だ」

「オレに……何を……」

「『呼吸刑』にしようじゃないか。それと、アレかな?」

「アレ……だと? オレを見せものに!」

「目立ちたがりのお前にとっては、良い結果だっていうこと」

「警備隊」の隊長である女は笑った。


 そして、わたしは気が遠くなっていった。自分でも情けないことに、わたしには自分自身を気絶させる以外のすべがなかった。……ごめんね、R。


 そして、薄れゆく意識のなかで、NT5がかすかに笑っているのを、わたしは目のはしで確かめていた……。

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