In a sudden

* In a sudden


 それから数日が過ぎて、施設のなかが慌ただしくなった。従業員たちは、この施設のなかで“不貞を働いた者”を探そうとしていた。しかし、“彼”は見つからなかった。


 不貞とは、わたしとRとのセックスのことだ。


 ……なぜ? 彼──正直に言えばRだ。彼はハッキング技術に秀でていた。彼は思いのままに、あるいは見せかけとしては施設の意向に従っているように見せつつ、巧みに己を隠し去る術を知っていた。わたしたちのことを、わたしの仲間を含めて、誰にも言わなかった。


 従業員たちが、キャンディーの自販機を破壊していく。きゃらきゃらとしたロリータ風の服をハンガーから引きずり下ろし、カッターで切り刻む。ゲーマーたちは震えた。そんな様子はおくびにも出さずに。


 リーダーのNT5がわたしに聞いた。


「あんた、なんか知ってる?」……その口調は、けだるい中年女のそれのようだった。わたしはひそかに幻滅する。


「いいえ、何も知りません。何があったんですか?」

「誰かが誰かとヤッたのよ。秩序壊乱ですって」

「そういうこと、よくあるんですか?」

「いや、滅多にない。わたしもヤッたことはない」

「じゃあ、誰か悪い人が秩序を乱したんですね……」

「あっはは。悪い人、かあ。あんたの考えでは、そうなのかもね?」


 そのころ、わたしはサラダばかりを食べていて、ぽっちゃりした体形はだんだんに引き締まってきていた。自分で言うのもなんだが、“ビジン”という種類の女に近づいて来ているように思えていた。一方のリーダーは、このところ肌荒れがひどい。


 あの日、近所の空地で彼女を見かけて以降、何カ月の時が経ったのか……


 わたしは、Rとのあの日の経験について思いを馳せる。それは、恥ずかしいような、幸福なような、わたしには形容できない印象に包まれていた。


 そこへ、従業員たち……いや、彼らは『警備隊』と言われる特殊な存在だ。そのことを、わたしはNT5から知らされていた。──が、踏み込んで来た。NT5がぎょっとする。


「おい、女、こっちへ来い!」

「わたしが何を……」

「とぼけるな、Rはすでに捕らえている」

「Rさんが?」


 ……それは、明かに失敗だった。奴らは、わたしとRとの行状を完全に把握していたし、わたしはこのシステムのなかで、翻弄されるよりほかのない存在だった。きわめて矮小な、抑圧される者としての、自我。自我? そんなものがこの世界にあるのだろうか? この、暗闇のような世界において。

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