Secret
* Secret
「ちょっと、トイレ……」と、五分刈りの女が言った。
この集まりのなかでは、恥じらいとかそういった感情は必要ないらしい。わたしは自動車を止めた。──うん。ここは、ある建物の内部であり、同時にひとつの街だった。
その時に、わたしが騙されていると知っていれば、わたしは死なずに済んだのだ。
残り3人の女たちは、1人は頭の後ろで手を組んで、もう1人は指をぱちぱちと鳴らしながら、リーダーの長髪の女は無表情に、彼女が助手席から外に出るのに任せた。
「待って、わたしも……」と、追いかける。
煌びやかな電飾。ショッピング・モールのような鮮やかなデコレーション。行き交う、表情をなくしたような、あるいは興奮しているかのような、男と女。子供はいない。そこかしこに、従業員が行き交っている。ここは……整理された街なのだ。
五分刈りの女性が入って行こうとしたのは、もちろん女性用のトイレだった。しかし、従業員に制止される。……またか。
「お前、ここでルールを破ればどうなるか、分かってんだろうな?」
「ちげーよ、オレは女だよ!」
「女? そうかい? 穴が塞がってなけりゃ良いがな」
「けっ」
……そこで、つまづいて男性用のトイレへと向かった女が、1人いた。すかさず従業員が駆け付け、その女を殴る。
「ごめんなさい、わたし、ただつまづいて……」
しかし、従業員は無言で女を殴る。
「助けて! 助けて!」
「ここで、『助けて』は通用しないんだよ!」
わたしは、その時になって、ようやくここがどれほど異常な場所なのかを分かり始めていた。女は顔面を蒼白にして、ただ殴られるに任せている。いや、もちろんそうではない。女は抵抗する意思をなくしていた。そして、やがて別の従業員にかつがれて、どこかへと姿を消した。
「ねえ、ここって?」
「あ? 見た目通りの場所だよ」
「見た目って……」
「煌びやかな、地獄」
わたしはようやく知った。彼女たちが何と戦っていたのかを。
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