『サクラソウ』

お題『サクラソウ』

制作時間:15分程度


 貴方を想いながら歩く。


 一途な私は変わらない。


 いや、変われないのだ。


 貴方が、嗚呼。

 

 記憶の中でいつでも煌めく、そんな貴方を忘れられない。


 悲恋とでも言うのだろうか、私の恋は実らずに、ずっとずっと引きずっている。

 

 新しい出逢いが欲しい。


 いや、貴方を想い続けるのにそんなものは要らない。


 相反する考えはぶつかり合い……一旦落ち着こうと周りを眺めてみる。


 花壇、咲き誇るのはサクラソウ。

 花言葉は「青春の始まりと悲しみ」だそうだ。


 私の青春は終わってしまったばかりだというのに、こんなもの見たくもない。


 腹いせに花を、力いっぱい踏み潰す。


 門をくぐり体育館へ。


 貴方を想う入学式。

 私はずっと、上の空。

 ずっとずっと、貴方のことばかり。 


 ぼーっとしていた私は誰かの声で現実に引き戻される。


 雑音め。

 私の想いを邪魔しやがって。


「入学式、もう終わったぞ。いつまで突っ立ってるんだ?」


 目が合う。

 

 がっちりとした身体に整った顔立ち。

 その優しい声も合わせて、こういうのを女の子の理想と言うのだろう。


 それでも私は貴方一筋。

 貴方だけを想い続け……続け……え?


 鼓動が収まらない。

 心臓の跳ね回る音は手を当てずともわかる。


 この感覚は……あれだ。

 

 貴方と初めて会った時に味わった。


 いいや、そんなはずはない。


 そんなことあってはならないのだ。

 

 私は貴方一筋。

 貴方だけを想い続けるのだ。


 クラス分けも済み、私は……さっきの彼の隣の席に座っている。


 私の恋心を踏みにじらんとする、ひどいクラス分け。


 もう貴方の顔も思い出せなくなりそうなくらいに、私は彼に染まっていく。


 私は……叶わない、敵わない、この悲恋を抱えて生きていくと決めたんだ。


 貴方のことを忘れるわけにはいかないんだ。


 そんなことを叫びそうになる。


 この鼓動に戸惑い焦る私に、彼は声をかける。


「大丈夫か? 保健室にでも行くか?」


 嗚呼、優しい。


 きっと、いい人に違いない。


 もう会わないかもしれない、そんな貴方より彼のほうが……いや、そんなことは考えるな。


 私は思考をやめる。


 目を閉じる。

 

 私は……息を、鼓動を止める。


 止める?


 あっ……。



 保健室、目が覚める。


「……起きたのか、大丈夫か?」


 彼の心配する声が聞こえるが、私は聞き流す。


 私のことなんて気にしてないだろうけど、どうか心配しないで。


 私はずっと貴方の虜。


 想い続けるのは貴方だけだから。


 だから、いつか……きっと。


 貴方は私に振り向いてくれるかな?

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