『梅雨』

お題『梅雨』

制作時間:20分程度


 曇り空に湿った空気、ちょっとした小雨。

今年も梅雨がやって来た。


 蒸し暑い空気の中、私は窓の外を眺め気分を紛らわせようとする。


 一面の曇り空しか見えないことに気がつき、外を見るのもやめてしまった私は、なんとも言えないこの憂鬱の行き場を探す。


 わだかまりが一気に飛んでいってしまうような、そんな面白いことを想像しよう。

そう頭を振り絞っても、いいアイデアは浮かばない。


 この憂鬱はどこから出てきたのだろう?

気を紛らわすために考えてみる。


 まず、感情の居所……ましてや出所を探るのはえてして難しいものである。

今までの軌跡を辿ろうとも、目立った事は私の周りで起こらない。


 つまり、記憶にはっきりと残ることが全くと言っていいほどないのである。


 飽きた。


 気を紛らわせようにも、ただ考えるだけでは暇つぶし程度にしかならない。

私は仕方なく、カバンに入っていた本を取り出す。

教科書を立て、その影に隠れるように本を置く。


 本なら私を物語の世界へ引き込み、この憂鬱を置き去りにしてくれるはずだ。

私の心に絡みつき育ちきってしまった蔓を剥がしてくれるはずだ。


 本を開こうとしたその時。


 私は気付く。


 この本、昨日読んだやつだ。


 私は再び憂鬱のどん底へと突き落とされる。

もう私を憂鬱から救い出してくれるものなどない。


 いっそのこと真面目に授業を受けてしまおうか?

放心状態になりかけた私を、雨音が現実へ引き戻す。


 ぼーっとしていたほうが良かったのに。

この煩い雨音ときたら私の憂鬱を呼び起こしやがった。


 そう思いながらも、なんとなく雨音に耳を傾けてみた。


 ぽつり。


 ぴちゃっ。


 ぱしゃん。


 アイデアなんて要らなかったんだ。


 私は目を閉じ、雨音に集中する。

多様な雨音の奏でるオーケストラは、曇り絡まった6月の憂鬱から私を解放してくれるように思えた。

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