第4話 深い悲しみ

冬の夜空は星ひとつ見えない暗闇に包まれ、冷たい風が木々を揺らしながら病院の窓を打ちつけていた。病室の中は静寂に包まれ、ただ医療機器の淡い光が点滅しているだけだった。陽菜は、亮太のベッドの脇に座り、息子の冷たくなった手を握りしめたまま、時間の感覚を失っていた。


亮太は息を引き取った。彼の顔には、最後の瞬間に見せた安らかな微笑みが残っていた。彼が去った後の病室は、静かで、どこか神聖な雰囲気すら漂っていたが、陽菜の心には言葉にできない深い悲しみが押し寄せていた。


窓の外には、雪が静かに降り始めていた。白い雪は地面を覆い、まるで亮太の魂が天に昇っていくかのように、純白の静寂が広がっていた。陽菜はその光景を見つめながら、息子がこの世にいない現実を受け入れられず、ただ涙を流し続けた。


陽菜は病室のベッドサイドで、亮太が残した手紙「Lemon」を胸に抱きしめた。彼の最後の言葉が記されたその紙片は、彼女にとって唯一の慰めであり、息子との絆を感じられる唯一のものだった。彼の愛と感謝が詰まったその手紙を読むたびに、彼女の心は痛みと共に温もりを感じていた。


葬儀の日、冷たい風が吹き荒れる中、陽菜は亮太の遺影を抱え、涙を堪えながら列を進んだ。参列者たちは皆、亮太のことを思い出しながら静かに涙を流していた。彼の笑顔が映る写真は、まるで今にも話しかけてきそうなほど生き生きとしていたが、それが永遠に失われたものであることを痛感させられた。


葬儀が終わり、陽菜は家に戻った。彼女の心には深い悲しみと虚無感が広がっていた。家の中は、亮太が過ごした温かい日々の記憶で溢れていたが、その温もりはもう戻らないことを知っていた。彼の部屋に入ると、ギターが静かに立てかけられ、彼が書きかけた楽譜が机の上に置かれていた。


陽菜はその部屋でしばらくの間、涙を流し続けた。彼女の胸には、亮太がいつも近くにいるような気がしてならなかった。その感覚は痛みと同時に慰めでもあった。彼が遺した手紙「Lemon」を再び読み返し、彼の言葉一つ一つが彼女の心に染み渡るのを感じた。


「お母さん、僕はいつもそばにいるよ」という亮太の言葉を胸に、陽菜は深い悲しみを抱えながらも、少しずつ前を向く決意を固めた。息子の愛と感謝を糧に、彼女は亮太の夢を叶えるために生きていくことを誓った。


夜が更け、静寂が再び家を包む中、陽菜は窓の外に広がる雪景色を見つめた。亮太の思い出と共に、新たな一日を迎える準備を心の中でしていた。彼の愛が、彼女の心の中で永遠に輝き続けることを信じて。

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