第3話 最後の手紙

病院の窓から見える景色は、冬の訪れを告げるかのように薄い霧に包まれていた。寒々しい風が枯れ葉を揺らし、空はどんよりとした灰色に覆われている。病室の中には、医療機器の規則的なビープ音が響き、静寂と共に時が流れていた。


佐藤陽菜は、ベッドに横たわる亮太の手を優しく握りしめていた。彼の顔色はますます蒼白になり、呼吸も浅くなってきていた。陽菜の心には不安と悲しみが渦巻いていたが、亮太の前ではそれを隠し、微笑みを浮かべ続けていた。


亮太は、母親の顔を見上げて微笑もうとしたが、その笑顔は痛みに歪んでいた。「お母さん…、僕…書きたいものがあるんだ…」彼の声はかすれ、か細くなっていた。陽菜は息子の願いを叶えようと、枕元のノートとペンを差し出した。


亮太は震える手でペンを握りしめ、ゆっくりと文字を綴り始めた。その筆跡は以前のように滑らかではなく、力強さも失われていたが、彼の心からの思いが一文字一文字に込められていた。陽菜は、息子が最後の力を振り絞って何かを書いている姿に、胸が締め付けられるような思いを感じた。


しばらくして、亮太はペンを置き、深い息を吐いた。「お母さん、これ…」彼は手紙を母親に手渡した。その手紙の表には、「Lemon」とだけ書かれていた。陽菜は震える手で手紙を受け取り、慎重に開いた。


手紙には、亮太の感謝と愛が綴られていた。


「お母さん、僕を育ててくれてありがとう。僕が病気になってからも、ずっと支えてくれて、本当に感謝してる。お母さんと過ごした時間は、僕にとって宝物だよ。これから先、お母さんには幸せになってほしい。僕はいつもお母さんのそばにいるから。」


陽菜の目から涙がこぼれ落ち、その涙は手紙の文字を滲ませた。亮太は母親の手を握りしめ、「お母さん、愛してる」と最後の言葉を告げた。陽菜は涙を堪えながら、息子の手を強く握り返した。


その瞬間、窓の外には一瞬だけ陽が差し込み、淡い光が病室を包み込んだ。陽菜はその光を見つめながら、亮太の愛と感謝を胸に刻み、彼の思い出を永遠に大切にすることを誓った。


亮太の最後の手紙「Lemon」は、母親への深い愛と感謝の証として、陽菜の心に深く刻まれた。それは彼女にとって、これからの人生を支える光となるだろう。病室の冷たい風景の中で、母と息子の絆は永遠に続くことを感じながら、陽菜は新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

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