幕間 或る牧師の最期

 椅子の上に立つ。


 眼前でゆらゆらと揺れる縄は、私を死へと誘う。


 私は震える手で、縄に手をかける。


 嗚呼、怖い。

嫌だ、死にたくない。


 死に際して、恐怖と生存本能が暴れ出すのを感じる。


 彼女は、私は、やっと救われる。

救われるのだ。


 そう自分に言い聞かせ、首を縄に通す。


 救われるなんてとんだ笑い草だ。


 私が日々子供たちに読み聞かせている聖書によれば、自殺した者は天国には行けないのだから。


 私は椅子を蹴り飛ばし、現世へとさよならを告げる。


 一瞬で首に負荷がかかり、皮膚が今にも擦り切れそうだと悲鳴を上げる。


 私は藻掻く。


 本能が、この痛みを、苦しみを、和らげようとしているのだ。


 藻掻く度、首の皮膚は擦り切れていき、血が流れる感覚を覚える。


 苦しみよりも先に痛みを感じる。


 駄目だ。


 私はもっと苦しまなければ。


 彼女もこの苦しみを、痛みを、経験したのだろう。


 これは私への罰なのだ。


 神に背いた私への罰なのだ。


 彼女を救えなかった私への罰なのだ。


 この程度の痛みでは、苦しみでは、足りない。


 そう、足りないのだ。


 償いきれやしない。


 嗚呼、もし来世があるのなら……

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