20241207
例えるならそれは血のように赤い巨大なミミズに似た存在である。冒涜的で、人間の手に負えないそれに目をつけられてしまった私たちは、死ぬしかないのだ。
どこかの平家にいる。学生である私とパートナーと女子Aと男子B、あと二人ほどの大人とここにいる。住んでいるわけではない。今だけここにいる。なぜかわからない。よく思い出せない。なにか、任務のようなものがあった気がする。
襖で仕切られた和室が二、三部屋続いており、その一室に私はいる。そして、それもいる。正常に知覚できない。何も知らない私が呑気にこの部屋に入ってしまったので、それは私を捕らえに来た。白く、ぼんやりとした人型の気配だけが、夜明け前の暗い和室を移動してくるのが脳で分かる。井草の匂い。畳の目を足の裏に感じる。全身がこわばって動けないまま、それに全身を包まれた。いや、握られた?
その瞬間、体の中身だけ一回り小さく圧縮されたような閉塞感と、少しの苦しさと、耐えられる程度の痛みのようなものに支配される。その感覚たちだけでいっぱいになる。ほんの数秒だ。ふっと体が楽になった。自分が死んだのがわかる。苦痛がこんなに短くて軽く済むなら、死ぬ時は毎回これがいいな、と思った。
これから二周目が始まる。
平屋の中、連なった和室の左側は襖ではなく、木枠に障子が貼られた引き戸だ。全てが外へ繋がっている。普通は縁側にありそうな、本来ならガラスが嵌められているだろう引き戸である。縁側だけ抜き取ってしまったみたいな構造だなと思う。このガラスを外しておけば、戸の木枠を跨ぐことができる。そうすればいざという時邪神に捕まらないと二周目の私は知っていたので、ガラスを外すことをみんなに提案した。この行為がのちに私たちの命を救うはずなのだ。
ごうごうと家屋が燃えている。学生たちが逃げ惑う。多分、もうここを焼くしかなかった。暗く赤い部屋の奥から、パートナーを引きずり出すように手を引いて外へ逃げる。家を焼いたところであのミミズじみたものが死ぬわけではなさそうだった。家屋の外、砂利の敷かれた敷地は神社の境内みたいだった。あるいは幼少期に住んでいた一軒家のガレージのような雰囲気。晴れているが、煙で濁った空の色。なんだかとても不吉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます