20241210

 三階建ての暗くゴミの多い古民家の中を、怯えながら進む。一階から順番に、散らかった部屋部屋を慎重に確認する。最初は一人で、二階目はメガネの男性と二人で進んだ。なんでこんなことを繰り返すかというと、ここに住む若い女性を探している。探しているが、見つかってはいけない。

 一階は比較的日光が入り、薄明かりが舞う埃をきらきらと照らしていた。私は喉に絡まったスライムじみた大量の痰に苦しめられ、ティッシュペーパーを何枚も口元にあてて、しまいには嘔吐する。そんな時にデザイナーがカンプチェックを持ってきたものだから困った。大丈夫だから置いてってください、と畳の床にデータを置いてもらう。背後で職場の人たちの気配がする。私の異変に男性役員が寄ってきて、PayPayの口座チャージができていないじゃないか、とスマホのQRコードを読み込もうとする。だって、できないんです、どうしてもできない。

 一階から、グレーのスウェットを着た若い女性が二階へ消えるのが見えた。短く明るい色の髪に、あの後ろ姿に見覚えがある。パートナーの過去だ。どうして過去が住んでいるのか。デザイナーがこの家中に設置した、抱えるほどの鳥の剥製じみた作り物を一つずつ確認しながら進み、間違いを探す。鮮やかでカラフルなインコの作り物がほとんどだったが一羽だけ茶色く、大きな嘴。これは鷲じゃないのか?

 よかった、間違いを見つけられて。


 狭い階段は一段登るごとに軋み、ストックされているのか放置されているのかわからないダブルのトイレットペーパー12ロールのピンクのパッケージがいやに庶民的だ。メガネの男性が怖気付きながらもついてくる。暗い部屋に入るのが怖くて彼に先導してもらった。誰もいない。正確に何かまでは認識できない雑多なものたちで溢れている。布団や、服や、さまざまなもの。

 三階を目指す時、上から物音がした。トイレのドアが開く音だ。しまった、誰かいる。男性は物陰に隠れ、私は逃げ場がなく、12ロールのトイレットペーパーを抱えて階段の隅にしゃがんだ。こんなものでバレないわけないだろうと自分に呆れながら、しかしパートナーの過去の姿は私たちが見えていないかのように階段を降りていく。バイトに行くらしい。グレーのスウェット。

 そうか、過去だから私たちのことは見えないのか。


 日本は空中庭園のように高い崖の上にある。外国人観光客はわざわざ飛行機で日本にやってきて、その中でも辺境の地にある山奥の自然を求めてくるのだからたいそうな事だなと思った。私はここに飽き飽きして、素手で、命綱もなく、断崖絶壁を降りていく。晴れた昼だ。眼下には鮮やかなコバルトブルーの海が広がり、ポツンと細長くちいさな島が浮かんでいる。

 これは前に見た夢の、あの島ではないだろうか。


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夢日記 古海うろこ @urumiuroko

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