20240817

 草の生い茂った山道を歩いている。日が高く、少し汗ばむくらいには暑い。けれど快晴が心地よかった。私はその先にある古い民家に母と二人で住んでいる。

 手にはスーパーでゲットした普段は買わないお高めの牛肉と、マグロの柵が入った袋を持っていた。歩くたびに草を踏む音が鳴り、土の硬い感触が靴裏に伝わり、遠くの山間で風が雲を流しているのが見えた。のどかで、ずっとここで生きていたいと思える。なんとなく足元を見ると、ニゲラが群生していることに気づいた。蕾だけで花はひとつたりとも咲いていない。どうしてニゲラがこんなに植っているのだろう。

 そのうち家が見えた。木造の古い造りだ。昔働いていた京都の町屋を思い出す。ガラガラと玄関の引き戸を開けて中に入る。出迎えてくれた母に「手洗ってくるから冷蔵庫入れといて」と頼んで、スーパーの袋を木製のスツールに置いた。母親はスーパーの袋から中身を出して何か言っていた。

 家に帰って、買ったものをしまう。家族と言葉を交わす。なんて些細な日常の描写なんだと泣きそうになった。何気ない出来事だ。取るに足らない日々。でもそれがなにより尊くて、今後ずっと忘れられない時間なのだと、俯瞰した自分だけがどこかで気づいていた。

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