20140530

 私は小学生くらいの男の子で、晴れた昼、工場の敷地のようなところにいる。物陰に隠れて、じっとしている。フェンス、土、雑草。少し離れたところに大人の男がいるから逃げられない。

 打ち捨てられた箱やドラム缶の隙間に入り込むように、私と同じようにぼろぼろな、色素の薄い少女が息も絶え絶えに隠れている。私たちは赤の他人だけど、同じ状況に置かれていることだけはわかった。ここから逃げなければいけないこと、逃げるのは難しいこと、大人に歯向かえば殺されるかもしれないこと、道の先にフェンスが破れた場所があることを知っていた。

 私よりも年上の、中学生くらいの女の子がこちらに向かってくる。男からも見えている。こっちに来るな、居場所がバレる、と強く思ったけれど、その子は私の姿が見えているかのようにまっすぐこちらに向かってきた。見つかって、耳元で言われる。逃げて、と言われる。その子は物陰から出て、いつの間にか近づいてきていた男に、服の下から取り出した銃を撃った。その音をきっかけに私は走る。ぐずぐずしている暇はなかった。それでも置いて行くこともできず、フェンスと逆方向、ぼろぼろの女の子の元へ向かう。駆け寄って力ない体を抱き起こし、逃げようと言う。白い服は汚れ切っていた。無理矢理引っ張るようにして、走る。視界の端に、男の腹に座って銃を撃ち込む姿が見える。「殺したらもう助からない」という言葉が笑いに混じって聞こえて、それでもフェンスを抜けてそこから逃げた。

 しばらく走ると赤黒く陰鬱な牢屋の中にいた。手を引いていたはずの女の子はいない。後ずさり、背に鉄格子が当たる。壁にぐにゃぐにゃと歪んだ文字が書かれている。

「黒い男が犯人だ」

 その文字が動いて変わる。

「お前が悪い」

 文字はばっと動くと目の形に変わり、瞬きして私を見た。

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