20131023
前列の生徒たちが、タワーオブテラーのような、段差のある座席に座らされている。二十人ずつだ。座席には固定ベルトがついていて、一度座ると降りられない。エレベーターのように、座席を隠す形で扉が閉まる。稼働音。見えないけれどゆっくり上がっている。順番待ちの間、私たちは監視のもと、前に進む。列に並びながら、配られた画用紙に絵を描かされる。人型か、動物といった生き物の絵が望ましい。クレヨンで猫の顔を描いた。先に描いて、失敗した絵には上からバツをつける。わたしの前の子も、猫だった。悲鳴が上がる。さっき昇った座席が勢い良く降下したらしかった。こわいこわいと、私達は騒ぐ。そこでまた、悲鳴が上がる。
落下が終わり、扉が開いたが、途中で止まっていた。頭一つ分の隙間から、座席に固定された生徒たちのおぞましい顔が見えた。扉の上部、天井に当たるように、一人の頭が、挟まっている。そのまま、座席はまた、動き出す。上に登る。扉に抑えられた頭が千切れて、生徒が死ぬ。
これはだめだ、乗ったら死ぬ。と私達は青ざめた。もうすでに乗り込む準備が始まっている。列は進み、私も受付で緑のリボンを取り、絵に貼り付け、箱に入った肋骨を抱いている。誰のものかはわからない。乗り込む時、足元の隙間に気がつく。私と、顔見知りの二人、その隙間からわざと、落ちた。
落ちた先は通路のような場所だった。電気はついておらず、汚くて、暗い。コウモリの糞がえげつないほどに散乱していた。頭上の喧騒と激怒する監視員から逃れるように急いで進もうとする。落ちた地点は左と正面に道が別れていて、左に進もうと足を踏み出す。暗い通路の奥に、髪の長い、女の姿が見えた。咄嗟にあとの二人にも早く逃げろと告げながら正面に進む。ここは通路というよりは病室のようになっていて、右手はいくつかの薄汚れたカーテンで個室に仕切られていた。ここから出る扉はあいていたけれど、一歩踏み出したところで駄目だと思う。反射的に、一番出口に近いカーテンに飛び込んだ。なんとなく、あとの二人もカーテンの内に隠れているのがわかった。
息を殺して潜む。体は全部隠れているか、それだけが気になった。しばらく時間がたって、なんの変化もない。二人が先にここから出ているような声がして、垂れたシーツを掻き分け少しだけ外を見た。ここだけカーテンが開いていた。
咄嗟にまたベッドの下に顔を引っ込めたけれど遅かった。髪の長い女が、ベッドの下に顔を突っ込んできた。恐ろしかった。引きずり出されるようにして、汚い通路に転がる。恐怖で記憶が曖昧で、その女に殺されたことしか覚えていなかった。確かに殺されたのに、私はまたその場所に転がっていた。
女も変わらずそこにいた。人間ではないと思った。私はこの女に殺され続けるんだとわかって、必死になった。女に馬乗りになって、青白い首と頭に手をかける。膝で鎖骨あたりを押さえるように体重をかけて、力一杯、頭を押して、首を折った。ごきん、と生々しい音と感触がして、殺したとわかった。
影から見ていたらしい二人が出てくる。殺してしまったと告げた。殺され続けるのはこわい、もう死にたくない、とも言った。切実だった。殺した女が黄泉帰る。苦しげに言う。
「目があったからあなたを殺し続けてしまう、財布の札の向きを揃えて、人の頭を下に仕舞えば呪いが解ける。財布はこの建物にある」
呪われた女に追われながら、暗い建物を走り回って財布を探した。ついに見つけたとき、一緒に探してくれていた二人が、消えた。もう一人でやるしかないんだと必死に走って、夜の外へ飛び出す。高い塀に囲まれた住宅が並ぶ田舎町だ。暗闇の中、道の脇に茂る草むらにノートを見つける。ノートと言うよりはスケッチブックのようだった。ぱらぱら捲ると、呪術的な紋様が描かれたページが一枚、二枚。茶封筒も二つ挟まっていた。中身は紙幣。向きを揃えた。財布の中身も揃えて、スケッチブックの間に挟んで、閉じる。背後から女と、男の形をした恐ろしいものが迫っていた。スケッチブックを上から押さえつける。財布を挟むページもきちんと考えた。わからないなりに、効果がありそうなところへ。そもそもこれで呪いが解けるかもわからなかった。でも、女の言うとおり紙幣を揃えただけではだめだったから、きっとこのスケッチブックは必要だ。
私のすぐそばまで恐ろしいものが迫ったところで、止まった。呪いが解けたかのように、ぴたっと止まって動かない。もう死んでいるらしかった。死体になったらしかった。助かった。
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