201?0730
私は姉と二人で、民家の二階に閉じ込められていた。家主の老夫婦は狂気じみていて怖かった。どうしてここにいるのか分からない。私たちは、老夫婦の隙をみて部屋を抜け出すことができた。暗く狭い、板張りの階段を降りる。音を立てないよう、慎重に。
階段を降りると、廊下は左右に別れている。左手には玄関があった。それならば右手に用はない。すぐさま玄関に向かう。段差のある、冷たい石の床に靴が並んでいる。そして、棚がある。棚にはライターやハサミや爪切り、その他諸々小さいな道具が無造作に置かれている。玄関は引き戸で、木の枠組みに擦りガラスが嵌っている。
玄関を出ると、この古ぼけた民家には不似合いな、交通量の多い道路に出た。走って逃げる。けれど姉がいない。振り返れば、なぜか姉は民家に留まっている。黒服の男が何人か現れて、私は咄嗟に路地に隠れた。
フェンスとビルの壁に挟まれた細い路地をぐるぐる回る。追っ手を欺くように。何度かやっているうちに、黒い車が道を出て行くのが見えた。助かったと思った。街の人々が死んでいく。人が多いせいだった。走って、気付くとやたらと草の茂った坂道にいた。川べりのような。草の背丈はゆうに私の腰を超えている。
私の後ろに、女が二人ついてきていた。彼女たちが、みんなが死んでいく中でどうしたらいいのかと叫ぶので、距離をおかないと死ぬと教えた。前方にも男が数名走っている。マラソン大会のようだと思った。私は右手の坂を登る。他の二人は、真ん中の道と、左奥の茂みの中に向かった。坂を登ってひたすら、土手を走る。走る。走る。
はっとする。気がつくと私の体は和室に寝ていた。古い家の一室であった。電気はついていないけれど、障子越しに外の光がうっすらと室内を照らしている。午後だ。この部屋を知っていた。姉がいる。黒髪。気弱そうな姉と一緒に私はもう一度、暗く狭い階段を降りる。廊下は左右に別れている。知っている。
二度目だ。左に曲がり玄関に向かう。音を立てないように、姉と一緒に、引き戸から外に出た。今度は森林の中だった。鬱蒼として暗く、濃い緑と湿った土のにおい。そっと後ろ手に引き戸を閉めた。姉が私を先導する。警戒して歩く。背後、民家からいかれた老夫婦が出てくる。彼らの体は紙袋のようだった。じたばたと動いている。
強烈な不安感に襲われ、必死に足を動かすけれどまったく進まない。逃げ道を塞ぐように倒れた大木を登ろうとし、姉に制止される。姉が先に登ると、横から弾かれるように突っ込んできた細い棒に体を貫かれて死んだ。老夫婦は帰っていく。満足したように。私は姉の脇を通って、登る。夜になっていく。伸びた爪を切ろうと思った。姉を燃やしてやらなくてはならないとも思った。爪切りは民家の玄関だ。爪切りとライターを取りに向かう。一歩進み落ち葉を踏むのにさえ、恐ろしいほどの時間をかけた。あたりは暗く、あとで、山の神に許しを得ないといけないなと考えた。山で一夜を過ごすには、それが必要だ。玄関は異様なほどに静かだった。
ライターで姉を燃やした。肉は崩れて骨は灰になる。優しい姉だった。私の代わりに死んだ。
いやな民家。
起きたらこの夢を綺麗さっぱり忘れていた。目が覚めて首を掻いたとき、いやに伸びた爪の感覚がはっきりと主張してきて、いっきに夢の内容を思い出した。
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